ハイパワー4WDにあらずんば…

Jet2004-03-18

はじめてのスバル
先日通りがかったおり、ふと思い立って近所のスバルのディーラーへクルマを滑り込ませた。いつかは一度のぞいておこうと思ったのと、休日に子供を放置しつつちょっとしたお楽しみをするのに、カーディーラーはもってこい、というよこしまな理由だ(最近のディーラーには大抵子供を遊ばせておくプレイスペースが備わっている)
今のクルマはシボレー・クルーズ。1.3LのFFでNA、四輪を移動手段としてしか考えていない僕には必要十分だし、スズキとシボレーの共同開発とはいいながらスウィフトの車高を少し上げてリアシートをずらし足回りを堅くしただけ、にもかかわらずフロントグリルにクロス・フラッグを燦然と輝かせシボレーのVIである丸目4灯のリアランプまで纏ったバカバカしすぎるこのクルマは、相当に愛すべき存在だと思っている*1
しかしながら、荷物満載で旅行に出かけた時とか、山道を“スムーズに”走っていると後席の人が「気持ち悪い」と言い出した時など、排気量の小ささや重心の高さを実感して「むむぅ、次はもっと排気量があってロールしにくい4WDだ!」となんとなく思ってみたりもする。というわけで、「街のハイパワーターボ+4WD屋さん」であるスバルには以前から興味を持っていたというわけだ。
10年以上前にEunos Roadsterを売り払ってMBX50に乗り換えて(!)以来ほとんどクルマに注意を払っていないので、スバルなんてレガシィインプレッサと、ウチのバンドのドラマーも乗っているフォレスターの3種類を売っているシンプルな店だと思っていた。妻に至っては「レガシィ“マイ・ファースト”?」という始末。……時間止まってるよ*2
……とそれほど不勉強のまま、その3台の性格分けと値段くらいわかればいいや、とスバルへ乗り込んだのである。


料理長が多過ぎる
家族持ちになって最も便利なことの一つは、カーディーラーで真剣に相手をしてもらえることだ。独身時代には冷やかしと思われて放置されることも多かったが、家族連れだと近づいてくる営業マンの目つきが違う(笑)。妻と息子をプレイスペースへ放り込み、さっそくクルマの検分にかかる。
ほどなくして、スバルなんてクルマ3台と思っていた自分の認識が間違っていたことを思い知らされた。B4の存在は薄々知っていたが、知らないうちにアウトバックとか言う新型も出ていて、どうやらレガシィフォレスターの間をつなぐ位置づけらしい。インプレッサも、街でおばちゃんが小汚いのを運転しているのを見て「ううむ見かけによらずスポーツ趣味なんだな」とか思っていたのにそれは単なるワゴンタイプで、速いのは「WRX」という“特別”な車種だけだということを知ったりする。
よしそれじゃあそれぞれの違いを細かく知ろう、とカタログを見せてもらうと、あるわあるわ──。一車種が2.0とか3.0とか排気量で別れるのみならず、RだのGTだのiだのXTだのSpecBだのカジュアルだのと細かく分かれ、その中で更に内装の装備別などで区別されて一車種につき十数種類のラインナップが並べられているじゃないか。……忘れてた、クルマってこういう世界だったんだ。
これだけバリエーションがあると違う車種でも価格やスペックで被ってしまうところもたくさん出てくる。レガシイのローワークラスはアウトバックのミドルクラスと重なるし、アウトバックの安いクラスはフォレスターとも重なる、といった調子だ。もう何が何だか分からなくて「それぞれどういう層がターゲットなんですか?」といきなりマーケティングを持ち出してけげんな顔をされる有り様だ。
おそらくクルマが一車種内でこれほど多グレード展開をする一つの理由は、価格帯を幅広く見せるためだろう、と考えてみる。マスが相手の商売だけに、車両価格のボリュームゾーンから外れた層も取り込みたい。そこで、毛色を変えた様々な(結果としては低価格に振った)グレードをたくさん用意して、本来ならターゲットではないレベルの層にも選択肢を提供する。これがもともと低価格の車両なら、反対に装備を追加したりして高グレードモデルを作ることで、少し上のターゲットもすくい取ろうとする。
──考えながら、僕は自然とバイクのことを思い浮かべる。こうした価格面から見る限り、バイクのターゲットレンジはそれほど広く設定されていないように思える。もともと車に比べれば低価格で市場も目標販売台数もはるかに少ないバイクにおいては、一車種を切り分けてユーザーが悩む選択肢を増やすことは逆に他の車種やメーカーに流れる機会を作ってしまうことにもなりかねないからだろう。

どちらが「いいお客様?」
しかし、本当にそうなのだろうか。CBR1000/1000R/1000SPとかを作ったら、客はついてこないのだろうか。たとえバッジのない単なる“CBR1000”でもいいからCBRに乗りたい、という客は生まれないのだろうか。
──ヒントは、ドゥカティにあるような気がする。ドゥカティのラインナップは、モーターサイクルメーカーには珍しく、車に少し似ているからだ。現行の999を例に取れば、スタンダード的な位置づけの999に対し、オーリンズの前後サスにステダン、WSBワークス譲りのオイルパン形状にチタンコンロッドなどを装備した999S、そして外装をフルカーボンとしキャリパーをラジアルマウントに、そしてエンジンの性格もよりシビアに振った999R、といったマルチグレード展開がなされている。価格帯も198万から375万と幅広い。これに、小排気量を価格メリットととらえて749S/749Rを加えれば、現行ドゥカティスーパーバイクの選択肢は5グレード、最大200万円の上下幅を提供していることになる。
これは、持ちあわせる車種の少ないドゥカティが少しでも広い価格帯でユーザーを取り込もうとする戦略の一部でもあるだろう。ドゥカティのCEOフェデリコ・ミノーリはエンデューロモデルやシングルに挑戦しない理由を聞かれて「ドゥカティは小さな会社であり、多種のエンジンをラインナップする体力はない」とはっきり答えている*3。──しかしそれはまた、ドゥカティ「少しグレードを下げてもいいからドゥカティスーパーバイクに乗りたい」と考える熱心なファンを抱えている証拠でもあり、それに応えるための選択肢提供、でもある。
するとこれは、欧米のメーカーに比べるとブランド意識が低いとよく言われる日本メーカーには逆に真似できないやり方でもあるのではないだろうか。たとえ低価格グレードを作っても、そこまでして“CBR”や“GSX-R”の名前が欲しい、と考えるユーザーがいるかどうかは疑問だ(同一メーカー内で他にも魅力的な選択肢がある)
とはいえ、日本製バイクのユーザーは「下手に性能を落とした低グレード」を求めず、無理してでもメーカー推奨スペックのマシンを買ってくれる(男の60回ローンとか)よいお客様、と考えることもできる。ユーザーの質としては、どちらがいいとか悪いとかの問題ではないのかもしれない……。僕はそんなことを考えながらスバルを後にした。

帰り際、妻が手にしていたプレイスペースに置いてあったインプレッサWRXの塗り絵(スタッフの自作らしい)を見ると、車体が毒々しいピンクに塗ってあった。「どうしてそんな色に?」と聞いたら、トイレにおむつ替えスペースがなく*4、置いてあるオモチャも片っ端から壊れていたのに腹を立てて、スタッフが見たら憤慨するような(“ウチにはそんな色のクルマはありません!”)色に塗ってやったのだという。
やれやれ、女性にかかれば世界に冠たる4WDスポーツワゴンメーカーも形無しである。

*1:選んだ理由?それはああた、Fitが当時5ヶ月のバックオーダーを抱えていたからです(笑)

*2:1993年にロッド・スチュワートが出演した、レガシィ・ツーリングワゴン・ブライトのCFから。使用曲は“People Get Ready”。←実はこれでアルバム買った

*3:『RIDERS CLUB』誌2003年8月号のアラン・カスカートによるインタビューから。さらにミノーリは「ドゥカティはニッチブランドにとどまっているべきだ」とも述べている

*4:このあたりはホンダさん(特にドリームピアなんて大型店)を基準に考える方が間違っているのだが