GP Watches

「よく働いた」などの極めて主観的な理由で自分にご褒美を上げたくなる、というのは近年意識化されたヘンテコなメンタリティだが、僕にも忙しい時に限っていきなり物欲がやってくる。
年末進行に忙殺される中、ふと「そういえば久しく時計を買っていないなあ…」などと物欲が差し込んでくると、調べ出すのも早い。自分の持っているのはブレスが革やゴムのものばかりなので、少しフォーマルな服装に合わせるためにもステンレスブレスのものが前から一つ欲しかったし……なんて考えを巡らしていたところに、こんなニュースが飛び込んできた。

か…カプリ…?何のことかと思っていたら、ロリス・カピロッシのニックネーム“CAPIREX”のことだ。この読みかたもさることながら、例によって日本語版サイトの翻訳は一部間違っているので、下にひととおり拙訳を載せてみる。


イタリアの時計メーカー、ブレイルはロリス・カピロッシのファンにはぴったりのクリスマス・プレゼントを発表した──それは、このMotoGPライダーに捧げられた新型の腕時計だ。この「クロノ・タイタニアム・カピレックス」はシリアルナンバーの入った限定モデルで、カピロッシに敬意を表してケース(訳注:時計の外周パーツ)の片側に「Capirex」のロゴと彼のサインがあしらわれている。

この時計は2004秋モデルの新しい「マスター・ドゥカティ」シリーズ三種類のうちのひとつだ。他に「クロノ・ブラック・スティール」モデルと「クロノ・スティール・ウィズ・ストラップ」モデルがあり、カピロッシはこれを大いに気に入っている。

バレンシアでのレースの時はもう見せてもらってたんだけど、発売は何日か後だったな」と元250ccチャンピオンは話す。「見てすぐ気に入ったよ。スポーティだけど同時にクラシックなデザインでもあるから、異なるターゲット層の顧客を掴めるモデルだね」

BREILは比較的マイナーなイタリアの時計メーカーで、僕も実物を目にしたことがない。さっそく公式サイトへ飛んでみるとなるほど、でかでかと『DUCATI CORSE』のロゴの入った時計が三種類発売されている。サイトの画質が悪いので質感まではつかめないが、ドゥカティファンや実際のドゥカ乗りにはたまらないアイテムかもしれない。

ドゥカティモデルに行き着くには、言語でとりあえず英語圏のもの──AUSTRALIAとかUKとか──を選び、上部メニューの『LATEST』から『ONE DUCATI』を探し出す)
なかなか変わったデザインで、かつカピロッシモデルとなれば面白い──とはいえブレイルは国内での平均的な価格が7〜8万円台なので、そんなに出すほど思い入れがあるかといえば、残念ながらノーなのだ。


モーターサイクルやGPに関わる時計が欲しいのなら、真っ先に候補に上がるのはMotoGPの公式タイムキーパーであるTISSOT*1がリリースしているMotoGP公式ウォッチ」だろう。
去年初めて公式モデルが出た時にもすぐさま買おうと思っていたが、諸々の理由でなかなか手が出なかった。シンプルなクロノグラフである「V8」をベースにしたデザインが僕としては今一つパッとしなかったのも理由のひとつだ。

どうしようかと思っていたら品切れになり、モデルチェンジなんて考えてもいなかったところへ今年の夏にリリースされたのがこの'04モデルだ。

昨年とはうって変わった盛り放題のデザイン!ベゼルはブレーキディスクを模し、ゴムのバンドはタイヤをイメージ。さらにリュウズのハウジングはキャリパーの意匠らしいが、このベースとなった“T-RACE”というモデルはみんなこのデザインなのだから、とってつけたような説明と言えなくもない*2
しかし腐っても公式ウォッチ。MotoGPを思い出す小物をいつも身につけているのも悪くない。「買うべし!」と盛り上がってはみたものの、6万円近い定価をすんなり納得させられるにはどこか引いてしまうところがあって、いまだに手を出せずじまいだ(笑)。
TISSOTには、風防のガラス面を触って機能を切り替えるという他のメーカーにはない機構を持った「T-TOUCH」というハイテクモデルがあるのだが、それならばまだしも…と思うことしきりである。


そうなると、他に目をつけているバイク関連ウォッチは目ぼしいものが少なくなってくる。しかしわれらがホンダさんも実はいろいろ時計を出していて、特に気を魅かれたのはこれだ。

バイクではなく飛行機の時計ということになるが、“男の子”心をそそる複雑な文字盤の中にさりげなくあしらわれた“HONDA”のロゴがシブい。
ホンダダイレクトマーケティング(HDC)が出す時計の中には中国製なども多くあるが、これはムーブからケースまで国内製造したSEIKOとのコラボレーションモデルだ。「ダブルネーム」とまでは言えないまでも、優等生的イメージのあるホンダと、世界に冠たる精密なクオーツ時計メーカーのSEIKOが組んでいるのは、いかにもという感じで面白い*3
クルマをイメージしたクロノグラフはそれこそポルシェのものまで多くあるが、そっちに手を出してしまうのもどこか釈然としない。しかしクルマにおもねた中でも、SEIKOの「IGNITION」シリーズはともすればクラシカルになりがちなクロノグラフを現代的にさらりと解釈していて、洒落ている。
特に佐藤琢磨とコラボレーションした「SBHR001」は、実物を見ると秒針にあしらわれたイエローのアクセントがぐっとくるほどカッコいい。

…とまあ、物欲のまかせるまま、ウィンドーショッピングならぬ“モニターショッピング”に明け暮れるのもちょっとした息抜きだ。
そんな中、先日ふらりと立寄った丸井で、TISSOT MotoGPを発見。店員に子供を人質にとられつつ勧められるままに腕にはめてみると……これがなんともいえない存在感でカッコいいではないか!
「ステンレスブレス」という初志貫徹を理由にその場は脱出したものの、もう一度行ったらどうなるかわからないなあ…。

*1:ティソ。年いった人や“通”はチソットと呼ぶ。ジャガーとジャグワーみたいなもんか。

*2:同様のモデルでモータースポーツとは何の関係もない“アテネオリンピックモデル”も出ていたのだから。

*3:SEIKOのみならず国内の時計メーカーは、誤差が少なくネジを巻く必要もない“夢の技術”であるクォーツ時計をを圧倒的な技術力で生産してきたが、その大量生産により腕時計の単価は下落し、クォーツ自体も発展途上国に至るまで浸透してしごく当たり前のものになってしまった。
近年は、その間瀕死の状態ながらもコツコツと機械式ムーブメントを作りつづけてきたヨーロッパのメーカーが息を吹き返し、機械式の味わいと、昔から変わらない「モノとしてのステータス」を武器に国産勢を押しやっている。これは、モーターサイクルにもそのまま当てはまる趣味性で興味深い。