RCVのRC

Jet2004-05-29

余計な買い物
静かな田舎町にやって来て腕をまくると、地元のちいさな玩具店をハリケーンのごとく宙に巻き上げてばらばらにしていった巨人──トイザらス。この巨大な遊園地の目まぐるしい刺激をおぼえた人々は、もはや狭くうらがなしい町の小さなおもちゃ屋に戻っていこうとは思わない。
僕も悲しいかなその一人。息子への誕生日プレゼントを選ぶために、わざわざ車を走らせて隣県にあるこのメガストアにやって来た。意中の品は前もって決めてあった某世界的企業のブロックセットなので、大して悩まずにカゴに入れて終わり。
しかしそれではこの労力に見合わないので、もっと適したものはないか(ついでに自分に面白いものはないか)と眼を光らせながら店内を見て回ることにする。長時間滞留で余計な買い廻りを狙うメガストア戦略の模範的な餌食だ(笑)。
と、さしかかったのはラジコンのエリア。四輪のRCには大して気がないのでさっと通り過ぎようとすると、視野の隅に妙に見慣れたシェイプ。見ればおお、なんとRC211Vではないか!二輪ラジコンの雄、TAIYOがついにロードレーサーモデルを出したのだ!
内蔵したジャイロで直立二輪走行を行い、きちんとバンクして曲がるこのシリーズ、存在はずいぶん前から気になってはいた。しかし、モデルアップされるのはホンダのCR250RやスズキのRM250などオフロードバイクが中心で、それ以外は仮面ライダーのバイクやはては「こち亀」の両津巡査の自転車など、キャラクターモデルばかり。唯一リリースされていたオンロードバイクは『バリバリ伝説』の巨摩郡仕様のNSR500のみだったのだ。
そのNSR500もある意味キャラクターモデルだし、ディティールもいまいち。でも唯一のフルカウルだしいつか買おうと思っていた矢先だったのだが、よりによってRC211Vが出るなんて願ってもないこと、これは即買いだ!
とはいうもののそこは大人、一瞬ちょっと躊躇する。トイザらス価格で5,000円弱、バッテリーパックを入れればさらに出費がかさむ。“……今度にするか?”と良識が頭をもたげる。しかし、そのRCVのカラーリングとゼッケンを見た途端、僕は箱をカートに突っ込んでいた──それはレプソルでもなく02テストタイプでもなく、テレフォニカ・モビスター、しかもセテ・ジベルナウだったからだ!


驚くべきディテール
レプソル・ホンダでも、#74でもなく、なぜジベルナウなのか。別にワールドチャンピオンでもなく、去年確変するまではごく目立たないスペイン人ライダーだったセテを、タイヨーはなぜ選んだのか?一般のRCファンにとっては、#15なんて何の意味もないだろう。ということはそう、これは単なるオモチャじゃない。明らかに僕たち──GPファンに向けた製品なのだ──僕は勝手にそう感じてノックアウトされてしまったのである。
別の場所で息子を遊ばせていた妻に箱を見せに行くと「セ、セテー?!」と絶叫。よし、理解は得られたと判断(笑)。購入額がなんとか息子へのプレゼントの額を下回ったことで罪悪感をまぎらわしながら、僕は息子へのそれよりもはるかに大きな箱を抱えて(笑)トイザらスを後にしたのだった。
帰宅して充電しながら本体を眺める。じっくり見ても、玩具レベルとしては実によくできている。全長30cm弱、全体のシェイプはGuiloyのミニチュアなどよりずっといい出来だ。垣間見えるエンジン部もクラッチカバーやオイルキャップまで妥協なく成型され、フレームには溶接跡さえ入っているじゃないか!
銅色のブレーキキャリパーはきちんとブレンボの刻印を纏い、フロントフォークはストロークセンサーの張り出しまできちんと再現している。前後のサスもきちんとストロークする(さすがにユニットプロリンクではないけれど)。本体は'02前半型のRCV──フロントカウルにラムエアの張り出しがなく、二本出しマフラー、スリムなシートカウル──なのだが、そのあたりはまあご愛嬌だろう*1
スポンサーロゴの再現も並々ならぬものがある。テレフォニカカストロールなどはもちろんのこと、スイングアームのMilwaukee、NGKタカサゴチェーン、リアフェンダーにはdevil、Poggipoliniなど、細かいところまできちんと入っている。ライダーのツナギにも、三次曲面でプリントが難しい部位以外はHRC、Piolanti、Araiなどセテ仕様のロゴがきっちり再現されていて頭が下がる。

レースがしたい?
とにもかくにも実走である。と、僕は翌朝、自宅マンションの駐車場へこのラジコンを持ちだした(家の廊下で走らせたら一秒後に壁に激突。あたりまえか)。ジャイロ初体験に胸躍らせながら、コントローラーのレバーを前に倒す。
速えぇ!──これが第一感想。小走りでは追いつけないほどのスピードで走っていく。そしてバンク。内部のジャイロが傾くのに合わせ、スッとリーンする。後でよく仕組みを観察すると、左右の方向指示はジャイロを傾かせるだけでなく、前輪に逆操舵の舵角をつけているのだ。これによって倒し込みのスピードを稼いでいるというわけだ。へえ〜。
バンクさせると、転倒防止に左右にコの字型に張りだしたスタビライザーをガリガリと擦りながら旋回していく。──と、曲がりきらない!意外に最小回転半径は狭く、車4台分の駐車場では停めてある車にすぐぶつかりそうになって、定常円旋回まではできない。舵角をつけるスピードまでは調節できないようだし、スロットルも開度コントロールはできず、速度はオンとオフの切り替えで調節するしかない。
すかさずプロポのレバーを後に倒してブレーキ。しかしうまく直進中に減速しないと、スタビライザーでは傾きを支えきれずあっさり転倒する。妻がマーシャルよろしく駆け寄ってマシンをを立て直し、「(あまり転倒しないのが身上の)セテになんてことを!」と非難する。その後も狭いスペースゆえにうまく走りを収拾できず、セテもRCVもそこらじゅうをアスファルトにこすりつけて満身創痍だ(笑)。
と、重く垂れ込めた空からぽつぽつと雨。レース中断だ。次はもっと広い場所に持っていって遊ぼう、と思うが、それと同時にむらむらと沸き上がるのは「こいつを持ち寄ってレースしたい」という欲求だ。もちろんプロポの周波数が変えられないのでお話にならないが、そこさえ改造できれば夢が拡がる。
ジャイロのフライホイールの重量とバランスを見直してリーンスピードを上げ、バンク角を稼ぐためにスタビライザーを短縮する。ウェイトを仕込んで低重心化し、ライダーの人形は穴を開けて軽量化。どう改造したらスロットルコントロールが可能になるか?モーターの強化は?ゴムタイヤのプロファイルもリーンの効率を変えるかもしれない──*2
──と、真剣に分解→改造を考えているうちに、ふっと我に返る。プラモデルでもゲームでも、二輪にまつわる遊びに情熱を傾けようとするとすぐにやってくるあの感覚。ああ、本物の方がぜんぜん面白いんだよなあ──そう元も子もないことを思いながら、早くも梅雨に入ってしまったかのような空模様を恨めしそうに眺める。
とはいえこの出来のいい「RCVのRC」、GPファンのちょっとしたコレクションとしては間違いなく“買い”である。

*1:ラムエアダクトのないアッパーカウルは'02年の第10戦ブルノ以降(ロッシがラムエアの導入に同意して以降)姿を消し、'03年前半まで様々な形状の張りだしたラムエアダクトがRCVのスタンダードシェイプとなっていた。もちろん'02年、セテ・ジベルナウはスズキワークスでGSV-Rを駆り、雨が降らない限り上位に顔を出せないという苦悩のシーズンを過ごしている

*2:こんなことを考えるんだったら、それこそ実物のようにブレーキリリースとリーン後のスロットルコントロールで曲がるサンダータイガー社の「FM-1e」のような高価な二輪ラジコンに手を出すほうが早いかもしれない。これはずっとYZF-R1を模したモデルのみのラインナップだったが、最近ドゥカティの999も製品に加わったらしい。一度いじってみたいものだ。