アイズ・アンド・ドラゴン

Jet2004-04-21

憧れの革ツナギ
環八の喧騒から逃れて自動ドアをくぐると、ドゥカティアプリリアに混じってKTMMVアグスタ、カジバといった普段あまり目にしない輸入車がずらりと並ぶ。左手のガラスの向こうには広いワークショップがあり、色鮮やかな何台ものマシンが作業台の上でじっとたたずんでいる。目の前には螺旋階段があり、しんとした2階へ進むとほのかに革のにおいが漂ってくる。
この日僕がやってきたのは、BOSCO MOTO。世田谷区にある輸入車のディーラーだ。そして今日の目的でもあるARLEN NESSの革ツナギの輸入販売元でもある。かねてからの計画通り、ライディングのシーズンインにあたっていよいよ脱ナイロン、僕はツナギライダーの仲間入りを果たすつもりなのだ。

初めての革ツナギを選ぶにあたって、僕は迷わずアレンネスに目をつけた。元来20万円近くする革ツナギ相場にあって99,000円という破壊的な価格*1でありながら縫製に不足なく、しかも現役GPライダーを多くサポートしているとあっては*2、GPファンのバイク乗りとしては心くすぐられないわけにはいかない。


ワークスマシンという贅沢
恃んだ通り、BOSCO MOTOには僕が狙っていたもの含めすべてのラインナップがそろっていた。まずは本命、黒ベースに赤のアクセントをちりばめ、前腕は銀色という変わったパターンの'03モデルを試着する。以前にクシタニ製を試着した時はLでほぼぴったりだったので、海外ものであるこちらはおそらく少しだぶつくだろうと思いながらも同サイズを試着。ところがこれがまるであつらえたようにピッタリだ。
各所のサイズや動きを確認している僕に、スタッフがフロアの中央に無造作に展示してある黒いバイクを指して「あちらにまたがって実際のフィッティングをみて頂いていいですよ」という。
そりゃ願ってもないありがたい、と近づいてみると……なんとアプリリアRSV250だ。え?カウルにMAX BIAGGIって書いてあるよ。えーと、ゼッケン“1”?……って、ビアッジのチャンピオンマシンですかい!スタッフに恐る恐る「本物ですよね?」と聞くと「そうですよ」と何気ない返事。
アプリリアのマシンに詳しくないので年式まではわからないが、94〜97年の4連続チャンピオン時のいずれかのマシンなのだろう。古いものとはいえ、ビアッジさんのワークスマシンにまたがってツナギのフィッティングができるとは!ライコランドでポイント溜めるというせこい考えを捨てて輸入元まで来た甲斐があったというものだ(笑)。コンパクトな車体と細いタンク、低く垂れ角のきついグリップに、ホンダコレクションホールでまたがった宇川徹の99年型NSR250を思い出す。あれは「直進しかできないんじゃないか」ってくらい角度が絞られていたっけ……。
って、そんなことを考えてる場合じゃない。このツナギの膝の動きのよさに驚きながらマシンを降り、今度はより派手な'04モデルを試す。
元来ツナギのデザインなんてものはウォー・ペインティングと一緒だと思っているので、あまり地味なのは避けようと思っていた。ここに先立ってまずはクシタニに試着にいったのも、ベリック・デザインによるシックなヨーロピアンスタイルが売りのアレンネスよりも、そっちの方がそれっぽく派手でいいんじゃないかと思ったからだ*3
しかし、白地に赤のラインが鋭く奔る'04モデルを着て出てきた途端、見ていた妻が吹き出した。ウルトラマンみたい」──そういわれては元も子もないが、確かに黒地がほとんどなく、'03シーズンのプラマック玉田誠を思わせるこのデザインは、レーストラックには似合ってもワインディングユースには少し抵抗がある。それに、'03モデルと比べて股上がキツイのも気になった。スタッフに聞くと、同じLサイズでもその年の縫製パターンによって微妙にサイズが異なるのだという。また、縫った職人によっても少しづつ差が出るというからなかなか難しい。

遅れてきた峠コゾー
結局数モデル試着した結果、最初の'03モデルのフィット感が一番ということになった。革も他のものより少し柔らかい気がする。黒系のウェアばかり選んできた身としてはあまり代わり映えしない気もするが、デザインは良いのだからまあよしとしよう。憧れのトレードマーク「Eyes」もちゃんとついている。クールマックス素材のインナーもアレンネスブランドで揃え、すっかりブランド崇拝のおのぼりさんだ。
ちなみに、この「メンチ切った目のマーク」カワサキZX-RRのフロントスクリーン下部に張られているのを憶えている人も多いだろう)はベリック・デザインの商標だが、'04モデルからはS字にとぐろを巻いたドラゴンのマークのラインが登場した。これはどう違うんだと訊いてみたら、「Dragon」は落ち着いたデザインの大人向けライン、「Eyes」は若向け(?)ということらしい。先日の南アフリカGPでも、見ていたら中野やバロスはDragon、玉田はEyesがついていた。ムムム…何か深いマーケティング(それぞれのライダーのファン層とか)にでも基づいているんだろうか。まさかね。
というわけでコゾー向けツナギ(笑)をまとった僕は、翌日早速ワインディングへ繰り出した。予想通り、この動きやすさといったらない。特に下半身のフィット感やマシンへのホールド感は格別だ。RSタイチのアームドエアージャケット&パンツで過ごす夏以外、ボトムはジーンズだったこれまでを深く後悔する。
ツナギはレプリカ乗りのユニフォーム、と主張する『RIDERS CLUB』誌の論調に乗せられた感がないでもないが、それでもスポーツライディングにとってベストな装備なのは間違いない。家族持ちのエクスキューズとしてここ数年安全装備に力を入れてきたが、装備がもたらす安心感はライディングの際の心の余裕にもつながる。ますます一般人の感覚からかけ離れていくなあ……と思いながらも、次に必要なのはツナギ姿に見合うキレイな走り、と思うと──まだまだ道は長い。それについてはちょっと壁にぶちあたっているのだけれど、それはまた回をあらためて。
ぴかぴかのニースライダーは、今年の目標である「CBRサーキットチャレンジ」でツインリンクもてぎを走る(流す?)その日まで、見ない見ない(笑)。

*1:なんでも中国に5000人の労働者を集めた「ベリックタウン」を作り、そこで一斉にツナギを作らせている故の低価格とか。旧ソ連の研究都市みたい。

*2:今期ならアレックス・バロス玉田誠中野真矢アレックス・ホフマンルーベン・チャウスにレーシングスーツを提供している

*3:実際には、クシタニもアレンネスの向こうを張ってか10万を切る低価格ラインのK0031XX“Projection Suit”(妻に言わせれば“カブキロック”)を発売する予定だったので、それを狙っていた。4月発売とのことだがこれを書いている段階ではまだ未発売のようだ。
http://www.kushitani.co.jp/pro/0htm/k0031xx.htm