ビアッジさんに教えよう!

Jet2005-08-23

いきなり漫画の話で恐縮だが、80年代バイク漫画の金字塔バリバリ伝説の中で、僕が特に好きなシーンがある。第3部にあたるWGP編で、主人公・巨摩郡のライバルであるラルフ・アンダーソンが第4戦ポールリカールで巨摩に僅差で破れた後、本拠地であるヤマハモーター・ヨーロッパNVからこっそりYZR500を持ち出してアムステルダム近郊のハイウェイをかっ飛ばすところである。
スニーカーとジーンズにジャケット、サングラスという軽装でYZRを駆り、一般車の間を250Km/h超で駆け抜けたアンダーソンは、しばしの後マシンを休めて「レーシングマシンがこんなにも面白いものだということをしばらく忘れていたよ…」とつぶやく。
ラッキーストライクヤマハのエースであり、ケニー・ロバーツの秘蔵っ子と設定された彼が「本来なら最も注目されるルーキーだったはずの自分がまだ一勝もできていない」というフラストレーションから一気に回復する、印象的なシーンである。
パワー、スピード、運動性──コミックの中とはいえ、GPライダーであってもそのエネルギーの原点はこうした「バイクを操る楽しさ」なのだと感じさせてくれるこの挿話が僕はとても気に入っているのだが、僕も時折、そんな気分を気取ることがある(笑)。普段のプロテクションバリバリのレーシング装備を離れ、ジーンズにローカットのブーツ、半袖革ジャケット程度で、付近のバイパスやらを乗り回すのである。
もちろんGPライダーのエピソードと一般ライダーとで同じ気分なわけはないが、妻子持ちのえせローリング族(?)として「無事に帰るぞ!」的プレッシャーを離れ、ちょっぴり無責任な軽装備でスーパースポーツを飛ばすことは、それはそれでたいした気分転換ではある。
この日はその軽い気分に、さらに心躍らせるものが僕のライディングを彩っていた。──それは、この日CBRに装着したミシュランPilot Powerだ。


金を払う時はちょっと気が重いが、ひとたび走り出した途端に自分の出費が正しかったことに叫び出したくなる(笑)──いつもながら、バイクのタイヤをリプレイスするとそんな気持ちに浸ることになる。
7000キロとかなりもってくれた上、この夏に繰り返した八ケ岳攻略ツアーでついに寿命の尽きたOEMBT-014を換えるにあたって、僕は同じブリヂストンを想定していた。理由は単純、峠で会うのがネコも杓子もPilot Powerなので、ちょっと面白くなくなったのである。あまり走りには“熱心”でない友人のCBR乗りすらPPを装着するにいたって僕の天の邪鬼は頂点に達し、「それならこっちはブリヂストンBT-012SSだ!」と決めて行きつけのディーラーに連絡した。元から履いている014からの違いも分かりやすいので勉強になるだろうと思ったのだ。
しかし、人間単純なものである。夏にミシュランのキャンペーンがあったらしく、BT-012SSよりも、メッツラーのレンスポルト*1よりも安い値段でPilot Powerが買えると教えられ、僕は瞬時にミシュラン党へ宗旨替えすることになった(笑)。
店の人が出してきてくれたPPを触ると、もう腰を抜かすぐらい柔らかい。掌で軽く押して「ぶにょ〜ん」と全体がたわむのである。比較として出したダンロップのD208は、その点びくともしない。「こんなので大丈夫なのか(もつのか)?」とわざとらしく不安がりながら、僕は交換が終わるのを待ってCBRを街へ駆り出した。
変化はすぐに感じ取れた。交差点一つ曲がる時でも、接地感が、安心感が全く違う。以前履いたことのあるPilot Sportsは荷重移動の仕方によっては切れ込みが激し過ぎる感があったが(それはそれで楽しかったが)、PPはなんの不自然さもない。右左折の最中でくいっと「曲がり直す」なんてことも何の不安もなくできるのだ。
何よりも驚いたのは、前輪の圧倒的な安心感だ。入力したブレーキングがそのまま前輪に伝わっているようで、急激な“解釈の変化”がほとんどない。最初は空気圧が低いんじゃないかと疑ったほどだ。最近の014がかなりヘタッっていたことを差し引いても、これはすごい違いだ。
実際街を流していて、装具を直している一瞬のよそ見の間に前走車が急に左折し「うわぉっ!」とフロントを強くかけるシーンがあったのだが、これまでならフロントがロックしてつんのめりそうになる状況なのに、PPは「うにゅ〜」と柔らかく(しかし一瞬の間に)それを吸収し、CBRはすっと車体を止めたのである(まあ、僕のブレーキングが上手くなったわけじゃないだろうからw)。
──ブレーキングが楽しくなるタイヤなんて初めてだ!僕は先日の12ヶ月点検での清掃以来効きが鋭くなったために弱めていたブレーキレバーの遊びを2から1に戻し、タイトなレバー入力をしっかり受け止めるPPの反応を楽しみながら、夕暮れの国道をただあてどなくCBRを走らせた。

タイヤ一つで、マシンを乗り換えたように挙動が、気分が変わる。最近、某巨大掲示板「バイクにタイヤが付いてるのではない。タイヤにバイクが付いているのだ」という至言を目にしたが、まさにその通りだ。
一般ライダーでこれなのだから、いわんやGPにおいておや、だ。各チームやライダーがタイヤとのマッチングやセッティングに四苦八苦するは当然なのだと、あらためて思い知らされる。「いやあ、いいなあこのタイヤ。チャターに悩むビアッジさんにも教えてあげよう!」なんてバカな冗談が頭をよぎる(がんばれ先生!)。
これで峠道なんぞにもっていったら、こいつはどんな挙動を見せてくれるのだろう?期待は高まるばかりだ。“タイヤの皮むき”として、コンパウンドを揉んで発熱させることを前提とした加減速重視で走らせているので、バンク中にトラクションをかけたときの挙動はまだ分からない*2。でも、こいつならきっと自分が上手くなったような気分でこの夏を締めくくってくれるに違いない。
──って、台風接近ですかそうですか。お願いです週末にはかからないでネ。

*1:海外のCBR乗りのコミュニティを見ていると、メッツラー率が妙に高いように感じる。なぜなんだろう?値段?

*2:この“皮むき”というやつ、“現代車に上限回転数を指定した慣らし運転は必要か?”って話と同じくらい議論かまびすしい。僕の単純な疑問は「じゃあ何で新車納車の時は皮むきの話題がないの?」ってこと。ショップに確認すると、新車のタイヤは車両の出し入れで動かしてるから、という答え。
その程度で終わる皮むきなら、やはり何十キロ、何百キロ走れ、というのはおかしい。さらに、「徐々に寝かせていって…」というのも、接地していないのならそこはワックスがとれていないことになるのだから、使ったら滑る、という理屈になる。
要するに僕の今のところの結論は、慣らし運転と同じく「急激なパワーかけるな」ということと、「きちんと暖めてグリップ力を確立してから使え」ということ。この二点を普段よりも慎重に心がければ、“皮むき”は距離の問題ではなく、自然に済むのではないかと思っている。まあ、こうすると忍耐力の無い自分には丁度いいルールなのだけれど。