Odds and Sods

ロッシ1.9倍、ヘイデン4倍、ジベルナウ5.5倍、メランドリエドワーズ10倍、ビアッジ18倍、ロベルト・ロルフォ400倍(!)──この数字は何かというと、“ジブラルタル系”オンライン・カジノ企業BetandWin.comにおけるイギリスGP公式予選結果のオッズである。この企業はGPのスポンサーとしても度々登場しているので、見知っている人も多いだろう。
GPファンがレース結果やチャンピオンシップの予想をする時、そこにはどうしても応援の気持ちや希望的観測、判官びいきなどの要素が入り込んでしまう。その点、こうしたブックメーカーのオッズは冷徹だ。「彼は予選番長だけど、今回こそ……」なんて思っていても、QPと本戦では平然と数10ポイントもオッズ変わっていたりして、「このライダーの実力を世界はどうみているのか」が客観的(?)にわかって、ちょっとがっかりするやら我に返るやら、だ。
それでも今回、あの興奮も記憶に新しいアメリカGPで悲願の初優勝を遂げたニッキー・ヘイデンがロッシに次ぐオッズに躍り出てきたのは、HRCの手厚い庇護(とプレッシャー)をうけるこの若いケンタッキー人がラグナ・セカでの結果を元に“確変”すると誰もが考えているということなのだろうか?
イギリスGP本戦のオッズを見ると、あながちそうとばかりも言えないようだ。Raceでのオッズは日本時間22日昼現在、ロッシ1.45、“ロッシ以外”2.30倍、ジベルナウ6倍──ヘイデンはそれに次ぎ、一気に10倍まで跳ね上がっている。ビアッジ18倍、バロス28倍とオッズは二桁台になったとたん高くなっていき、三桁台も珍しくない。
日本のファンとしては毎回心のどこかで表彰台獲りを期待してしまう中野真也は250倍!というあたり、やはり賭け事はシビアだ。しかし、そもそもロッシに100ドル賭けて145ドルになったとしても、ギャンブルとしてはたいして意味がないだろう。それより本戦でロルフォに10ドル突っ込み、彼以外が全員リタイアしたとすれば一気に70万円近いお金を手にすることができるというあたり夢がある(ないよ)。


世界中のハスラーたちが期待するように、はたしてニッキー・ヘイデンの強さは本物なのだろうか?レースから二週間、さまざまな論客たちが意見を交わしているが、答えは一つだ──わからない
アメリカGP、スタートから“火のついたアライグマ”*1のように飛び出していったヘイデンは、レース中二度とその背中を後続に見せることなくチェッカーを受けた。「いやあ、ヘイデンは速かったね、さすがだね。──でも、なんで?」そう、面白いのは、誰もが彼がそこまで圧倒的に勝利することができた理由を明確にあげられないということだ。
わかりやすく派手なブレーキング競争で追い上げたわけでもなく、エドワーズのように“秘策のライン”でライバルをかわした訳でもない。画面に映っていたのは、ただ淡々とと2秒の差をキープし*2、最初から最後まで一人旅でコーナーをすっ飛んでいく69番のマシンだけなのだ。
バンプの一つ一つまで知り尽くしたレイアウトが有利となったのか?あるいは地元ファンの歓声が彼を奮い立たせたのか?しかし、その恩恵は他のアメリカンライダーも同じだ。あるいは、ホンダワークスがついに最適なRCVのセットアップを見つけたのだろうか?だが、マックス・ビアッジは同じ結果を手にすることはできなかった。
やれラグナのレイアウトはリアタイヤの消耗が少ないからだとか、ミシュランがヘイデンスペシャルを作ったとか、圧倒的勝利の要因とする諸説はまだまだ転がっている。誰もがイギリスGPでその決着をつけようと、このレプソル・ホンダのセカンドライダー*3を見つめているに違いない。

イギリスGPが目の前に迫ると、なんだか少し落ち着いた感じになるのは何故だろう?カリフォルニアの青い空、ヤマハ50周年のお祭り騒ぎ、250や125の不在、ブラッド・ピットマイケル・ジョーダン──USGPは何もかもがスペシャルだった。レーストラックの空気を左右するロッシやビアッジ、ジベルナウといったいつもの勢力がどこか“お客さん”のようで、そのかわりにアメリカンライダー達が大手を振って騒ぎ、ヘイデンの優勝と、ノーヘルの父親を乗せてのウィニング・ランがそれを最後の花火のように締めくくる。
3人のライダーが無邪気にお互いをたたえあう表彰台は、どこかに必ず一触即発の火種があったここ最近と比べると、まるでイベントレースのような雰囲気だ。それもそのはず、ポイント云々よりもまず優勝したことが大事件である若い男と、GPでの最高位を記録して喜ぶベテラン、そして、その二人に負けても痛くもかゆくもない──むしろ自らのチームのアニバーサリーのためにレースを手放した*4チャンピオン候補──誰もがお互いに利害関係のない表彰台なのだ。
「大相撲のハワイ巡業ね」と妻が言う。チャンピオンシップの大勢を動かすことのなかったこのレースの結果を考えれば、それも言い得て妙だろう。ヘイデンやエドワーズの笑顔を脳裏に残しながら、レースは再びヨーロッパへと戻っていく。どんよりと曇ったイギリスの空は、カリフォルニアとはあまりにも対照的だが、結果もそんなふうになるのだろうか。
架空のコインを手元において、さあ、誰に賭ける──?

*1:crash.net: Moody Blues 7/12付

*2:“スペイソたん”情報によれば、ヘイデンはピットサインでエドワーズと2秒差をキープするよう──つまり絶対にそれ以上飛ばさないよう──指示され続けていたのだというからちょっと微笑ましい。

*3:などと書いているうちに、発表されたダニエル・ペドロサHRC入り。ヘイデンは今シーズン始めに2年契約を交わしたと方々で公言しているから、ヘイデンはエースに昇格、追い出されるのは我らがマックス先生か…。とはいえ「ヘイデンにRCVプロジェクトを引っ張ることができるかは疑わしい」のは確かだだし、まだ予断は許されない。

*4:ロッシは最終ラップでエドワーズに仕掛けることを考えたが、“黄色いヤマハが2台グラベルに転がっているところを想像してゾッとして”3位で済ませることにした、とcrash.netの記事で語っている。