ラストチャンス

いよいよ開幕まで後一日と迫った2005年シーズンMotoGP。僕なりに来るべきシーズンを占うとすれば──おっと、そんなことがまったくもってばかばかしくなってしまったのが昨シーズンの(もっといえば緒戦南アフリカGPの)教訓だ(苦笑)。しかしながら頭から離れないのは、このシーズン、自らの“キャリア”を賭けて挑んでくるベテランライダーたちがいかに多いかということだ。
若く成長途中のライダーにとっては、ある意味ワールドチャンピオンは「通過点」であり、初めにくぐるべきゲートのようなものだ。なぜなら、それから何年にも亘って自分の“治世”が続き、「チャンピオンとして生きる」という第2の渡世が待っている可能性もあるからである(まさに今のヴァレンティーノ・ロッシのように)。
しかし、ベテランと言われる歳まで惜しくも王座に手が届かなかった練達のライダーたちに、シンプルに見てそのような可能性はあまりないだろう。経験が主立った武器になりつつある彼らにとって、ワールドチャンピオンは長きに亘った自らのレース人生を完成させるためにくぐる“最後のゲート”なのだ。
その筆頭は、もちろんワークスホンダの席を射止めた33歳のマックス・ビアッジだ。4年連続250cc王者の肩書きを持ちながら最高峰クラスを制覇できずにいる彼のチャンピオン獲得には、常に“悲願の”という枕詞がついて回る。またリオGPが中止が発表された3月初頭、自ら「これが僕の最後のGPになるかもしれなかったのに残念だ」というコメントを残した最大排気量クラスで最長のキャリア(14年)を持つアレックス・バロスにとっても、今年は意味深いシーズンになるだろう。
打倒ロッシの筆頭として語られるセテ・ジベルナウは32歳と少しばかり若いとはいえ、今年チャンピオンをとれなかったとなれば「常にランキング2位のライダー」などとアスリートとしてもっともありがたくない評判を頂戴してしまう可能性がある。かつてのモチベーションを失ったのではないかととりざたされることもある元チャンピオンケニー・ロバーツ(31)はともかくとして、もはや“スペインの杉様”化しつつあるカルロス・チェカ(32)、そしてさりげなくグリッド最高齢(36歳)のトロイ・ベイリスなど、キャリア的にはプッシャーゲーム*1の最下段にいると思われてもおかしくないライダーが多い。
実際、30代以上のライダーがグリッドの40%を占める(21人中9人)というのは、同じ世界最高峰クラスのF1(25%/20人中5人)と比べるとかなり奇妙な光景に見えるかもしれない。これは二輪と四輪の「選手層の厚さ」の問題なのか?それとも、二輪は四輪よりも経験が勝敗を決する確率が多いということなのだろうか?(後者の方がバイク乗りとしては嬉しい気がするが)


事実、数年のうちにMotoGPクラスの「新旧世代交代」が起こることは、物理的な問題として間違いない。(“精神的支柱”マクウィリアムスが去った今となっては)今いるベテランライダーたちが2年後、3年後もグリッドを埋めていると期待させる要素はあまりない。
しかし、その動きは思ったよりも緩慢だ。実力・意欲ともに最高排気量クラスへの準備が整ったライダーはいくらでもいるように見えながら、各チーム/メーカーはそうした若手の確変に期待したい一方で、ベテランに頼らざるを得ない事情を抱えているように見える。
その理由の一つはもちろん、スポンサーだ。近年とみにF1化しているといわれるMotoGPで、ライダーがもはや実力のみでシートをゲットすることが難しいことはよくとりざたされる。キャリアに富み、一定の人気を保ち、強力な個人スポンサーまで携えたベテランたちは、資金難にあえぐチームや、スポンサーの説得に頭を痛めるワークスチームにとっても極めて好都合な選択肢だろう。彼らに対して、いくつかの表彰台を獲得したものの、まだ評価が確定せず世界的な知名度も低い若手ライダーが太刀打ちするのは、それほど容易とは言えない。
'04シーズンにフォルチュナがメランドリよりチェカを選んだのもスペイン国内のチェカ人気のせいだというし、キャメルを獲得すると言われたスズキワークスが再び独力で戦うことになったのも、若いジョン・ホプキンスの放出を求められたからだと聞く。またレプソルやテレフォニカ・モビスター、マルボロといったメガスポンサーがチームのライダー選びに強い影響力と持っているというのはもはや公然の事実であるく*2。この点で、何の障害もなく今後MotoGPクラスに上がってくると思える若手ライダーは、テレフォニカに手厚い支援を受けるダニエル・ペドロサくらいだろう。
二つ目の理由は、MotoGPマシンの特殊性だ。現在のMotoGPクラスは、かつての250ccから500ccへのように2ストローク同士でステップアップより遥かに困難を伴うことは、ライダーたちのコメントや成績から垣間見ることができる(エリアスよ!エリアスよ!)。
そうしてステップアップしてきたライダーたちが苦戦する中で、各チームは4ストロークに乗り慣れたWSBKやBSBからスイッチするライダーに手っ取り早く可能性を求めた。しかしそれが考えているほどうまく行かなかったのはここ2年のリザルトが証明している。
幸い、2ストロークの専用レーシングマシンを使う250ccクラスは昨年前半にMSMA(モーターサイクルスポーツ製造業者協会)によって2006年以降も存続すること(つまりメーカーがマシンを供給し続けるということ)が決定された。しかし、それによって2ストローク出身ライダーたちの4ストロークへの順応性が早くなるわけではなく、それが故加藤大治郎やロッシを見てもわかるように大いに資質の問題であるという状況は変わらない。
いずれにせよ、今の状況が続く限り125cc・250ccからステップアップしてくる新人ライダーにスポンサーやチームが向ける目は、期待と不安どっちつかずの微妙なものになるに違いない。世界グランプリが完全に4ストロークの世界となり、かつてのように低排気量クラスから玉突き的に世代交代という状況になるのは、まだまだ遠い先の話だろう*3

MotoGPクラスが開設されて4年目。誰がロッシを破るのか?という疑問に加えて、そろそろ「次世代のスーパールーキーは誰だ?」という視点も増えてくるに違いない。第2のスペンサー(あるいはどうしても欲しいホンダ版平忠彦…?)を夢見てワークスホンダが根気よく育てるニッキー・ヘイデンか、スズキがその命運を賭すホプキンスか。はたまたRCVとのマッチングに期待が高まるメランドリか、“火の玉”シェーン・バーン、“股擦れ”チャウス、“ドン亀”エリアス(今はね)、そして実は隠れた“色男”ジェームズ・エリソンか。そしてもちろん世界的に打倒ロッシを期待されている玉田誠──。
己のキャリアとプライドをかけて今シーズンに臨んでくるビアッジやエドワーズらベテランが見せる熟達の走りと駆け引き、そしてそれに風穴を開けるように怖い物知らずで直情的な若き挑戦者たちの走り。どちらがより王座に近いのか──それは僕にはわからない。
しかし、僕は見たいのだ──「どけ、小僧!あんまりおイタが過ぎるとどうなるか見せてやる!」「どいてろ、オッサン!怖いのかよ!」そんなまるでマンガみたいな“ヘルメットの内側”が垣間見られる、熱い新旧対決のレースを。そして、そんな激しい争いに“巻き込まれ”、柄になくペースを崩してしまうロッシを。
そんなことを夢想しながら、目の前に迫った開幕を待つことにしよう。

いや一応宣言しておいた方がいいだろうな。今年僕が一番応援するのはビアッジです。でもセテより本当に強いかと聞かれたら答えに詰まります(笑)。そして、ホッパーが一戦でも勝っちゃったらもうメロメロです。ニッキーにも確変して欲しいです。玉田の真の実力も見たいです。あーもうみんな頑張れ(←オイ)。

*1:コイン落とし。ゲーセンのメダルゲームで、段々になったトレイが動いてその上のコインを押し出していくヤツ。僕はあれの必勝法が「百枚単位でコインを買って一気に投入して“流れ”をつくり、最終的に黒字を得ること」だと知って以来、空しくてやらなくなった。あの一枚一枚入れて「あ〜」とか言ってる感覚がいいんじゃないか(笑)。

*2:このあたりも『Cycle Sounds』誌2月号のマイケル・スコットの記事で触れられている。なんでもレプソルは、セテをテレフォニカごとワークスに入れようとしたホンダに「全資金をテレフォニカが肩代わり」という条件を突きつけたらしい。

*3:MotoGPクラスへの登竜門として新たに600ccの市販ロードスポーツマシンをベースにしたレースを組み込むことも検討されたらしいが、市販車ベースという点が純粋なレーシングマシンとして250ccの代わりになりえない点と、何よりフラミニ・グループの運営するスーパースポーツ世界選手権と政治的に大いにバッティングするため、現実的ではないらしい。