心震わ“さない”テクノロジー

Jet2004-12-08

行きつけのネットワーク店から「CBRの交換用ミドルカウルが届いた」との連絡があったので、さっそく店に赴いた。9月の初頭、1000Kmちょっと走った頃からエアダクトの上部が茶色く変色し始めた件の対策だ*1。ありがたいことに、対策したカウルに無償交換と相成ったのである。
以前の記事でも書いた通り、原因はダクトのすぐそばを走るドレンホースのゴム表面の油分がラジエーターの熱で揮発し、カウルに固着してしまうというもの。この“問題”があまり表面化しないのは、圧倒的に台数の多いウィニングレッド(赤黒)のカウルには影響がなく、フォースシルバーメタリックとパールフェイドレスホワイト(トリコ)にのみその付着が発生するからのようだ。
対策とはどのようなものなのかと見れば、カウルの裏側のドレンホースが接触するあたりにゴムのスぺーサーを設置して遮熱するというもので、特にホースの材質が変更されたとかいうものではないようだ。さらに話を聞くと、このゴムのパーツがもとからある車体とない車体があるというような話にもなっていて、この辺がシミ問題があまり表ざたに話題にならない理由なのかもしれない。
僕はといえば「熱=パワーの証」という程度に単純に考える性質で、カウルの変色もあまり気にしていなかったので(そういえばXL1200Sのときにスイングアームカバーがスーパートラップに接触して溶けていても放置していたなあ…)、まあこれでまた変色し出したらその時はその時で、という感じである。
交換した元のカウルは予備にもらえるのかなあ…と調子のいいことを思っていたらやはり検証用にホンダに送られるとのことだった(笑)


一時間ほどの作業にも関わらず代車を出してもらったのでありがたく自宅まで戻ることにするが、それがなんとかの「Smart Dio Z4」。昨年秋に発表された当時から、初のFI搭載4スト50ccということで注目していたモデルで、実際に購入計画まで立てたこともある*2
さっそくあちこちを乗り回してみる。なるほど、それまでの4ストローク車と比べると格段に「押し」の強さがある。アクセルの1/8回転ほどが「遊び」になっているような感覚で、スロットルをひねってある程度回転が上がってから一気にクラッチがミートするので、立ち上がりの力強さはクレア・スクーピーなどよりはるかに満足いくものだ。
もちろん2ストロークの弾けるような加速とは比較にならないが、ぐいぐいと速度を乗せていってすんなりと法定速度の30Km/hには達することができる。十分な距離さえあれば、そのまますべるように50〜60Km/hまで持っていってのクルージングも余裕だ。
近所の険しい坂道もいくつか試してみたが、他の4スト原付に見られるような、思わずフロントに荷重を移したくなるような非力さはなく、何も考えずすいすいと登っていく。さらに感心したのはブレーキだ。フロントのディスクブレーキがかなり信頼できて、安心してかっちりと止まることができる(僕がディスクの原付に乗ったのが初めてということもあるのだが)。
全体の印象としてはスムーズ──実にスムーズだ。まるで電気モーターに乗っているかのようで、運転していると緊張感がどんどん薄れてくる。思わず片手を膝の上においてだら〜っと走ってしまいそうになるのを何度も止めなければならなかった。

実用十分、快適なコミューターだ。しかしその一方で「だれが乗るのだろう?」という疑問はついて回る。おばちゃんの実用車としては高価格に過ぎるし、恥ずかしく張り出したリアスポイラーはいい大人が乗るには抵抗がある。
かといって、スムーズだが「心震わすパワー感」というにはほど遠いエンジンと、油断すると聞き逃すほど小さい排気音は、高校生が苦労してためたバイト料をはたくにはあまりに刺激に欠けるだろう。パワーや細部のスペックの魅力は、はじめての「自分の乗り物」を手に入れる男子大勢にとっては極めて重要な要素なのだ*3
スタッフに聞くと、いまだにDio ZX*4を求めてやってくる高校生は多いという。平凡な車体に隠された精緻なFIメカニズムはホンダのテクノロジーの粋を感じさせるものだが、それを所有欲に結びつける若者はほとんどいないだろう。
ホンダは2007年までに全てのスクーターをFI化するとのことだが、聞けば4ストローク50ccでこのスペック以上はもう難しいということ。もはや「カッ飛び原付」としてのDioやJOG ZRやZZといったブランドの時代は終わるのかもしれない。
とすれば、次代を担う「血気盛んな男子向けエントリー2輪車」は何になるのだろうか。みんなお金を貯めてビッグスクーターを買うのかな…。

*1:写真は9月時点のもの。4000Km近く走った現在では、もう少し進行していた。

*2:いかんせん20万近い最高級クラスの価格の割に売りはPGM-FIだけ。デザインも装備もとりたてていうほどのものはなく、カラーバリエーションも白と黒というやる気のない展開なので、結局手が出なかったのだが。

*3:04型のヤマハJOG ZRが、YZF-R1と“同じ”グリップエンドを使用していたことがそれをよく表している。笑ってはいけない。誰しもそこから始まるのだ。

*4:2ストローク時代のホンダのハイエンド50ccスクーター。