CBRの“CB”

Jet2004-12-01

出た時から「コイツは買おう」と思っていたささいなオモチャ。タカラが近年復刻させて以降続々とラインナップを増やしている「チョロバイ」の最新作である。
増え続ける車種を横目で見ながらこのシリーズには手を出しあぐねていたのだが、わが愛車CBR1000RRが──しかも他人には理解されにくいイメージカラー“パールフェイドレスホワイト”で出るとなれば、これを買わずしてどうしよう。ずっと気になっていたこのモデルを、ようよう手に入れてきたのはしばらく前のことだ。
このチョロバイシリーズ、見ただけで特に物欲をかき立てられるようなものではない。たしかにスイングアームの形状からステップ、フロントキャリパーに至るまで細かくデフォルメして再現してあるのには頭が下がるが、所詮愛嬌としては本家“チョロQ”には敵わないし、観賞用としてはあまり単体で見栄えのするものではない(集めれば別かもしれないけれど)。
一応買ってきてはみたものの今一つ愛着らしきものを見いだせずにいたこのチョロバイ、しかし走らせてみると印象は一変したのである。


実は僕は「こいつはどうせ補助輪がついているのだろう」と思っていたので、買ってから実際に二輪走行すると知って多少驚いた(タカラさんゴメンナサイ)。動力は、チョロQと同じようなプルバックぜんまいではなく、押し出すことで弾み車が慣性を維持して進むフリクション走行によるものだ。
しかし、チョロバイの構造にはさらに一ひねりある。よくあるフリクション・アクションとは違い、最初は「引く」のである*1
実は前輪と後輪の間にもう一つ、接地していない第3のホイールがある。車体の前端を押して可動式のフロントフォークを沈ませることで後輪を浮かせ、前輪とこの「中輪」だけが接地した状態を作り出す。そのまま車体を真後ろへ引き、中輪に後ろ向きの回転を与える。と、逆むきのギアで繋がった後輪がこれに連動し、前方向に勢い良く回転する。その状態で車体をそっと床に置くか、進行方向に押し出してやると、チョロバイは弾かれたように飛び出していく。
パッケージや宣伝にうたわれる「ドリフト走行」は、この時に車体をわずかに斜めにして押し出し、しかも勢いを強めにしてやることで結構簡単に実現できる。途中までは勢いで直進し、後輪がグリップを取り戻すにしたがって曲がりを強め、ずりずりとドリフト状態になるというわけだ。その様は、進入時のブレーキングドリフトというよりはWCM時代のギャリー・マッコイが見せたコーナー脱出時の神業ドリフトにも似た迫力だ。

なんだ、こいつは転がしてなんぼだ──おもしろくなって、狭い廊下で何度もCBRを走らせる。ホイールを回転させる時のフリクションギアのゴロゴロした抵抗感が指に気持ちいい。後輪だけを上手く浮かすにはある程度のコツが必要だが(力を入れすぎてはいけない)、慣れれば床に置くタイミングや押し出す強さによって、自然なRを描いて曲がらせていくことも可能だ。
そう、チョロバイは「オモチャ」なのだ。大人になると、何かと「コレクション」や「飾り物」という風に考えが行きがちだが、こいつが与えてくれるのは正真正銘の“遊び”──走らせて、止まったのを取ってきてまた走らせてを夢中になって繰り返すという、僕たちがあまり注意を振り向けなくなってしまった類いの時間の過ごし方なのだ──。
そんなことを考えていると、「パパのバイク!」と2歳半のマイサンがやってきてCBRを査収し、フリクション走行がうまく分からないので真似をしてただ前にほうり投げている。──おい息子よ、それではマッコイどころか菅生のストレートで離陸した伊藤真一だよ。
車体下部についている収納式のセンタースタンドを生かして机にでも飾っておこうという目論見はやはり外れ、今ではCBRのチョロバイは、息子の雑多なおもちゃ箱の中でクルマやヒーローに紛れてじっとタイヤを休めているのである。

*1:これは「引いて走る」というチョロQとしてのコンセプトの統一なのだろうか。んなわけないか。