Route U(1)

Jet2004-11-23

長雨にたたられた今秋シーズンの締めくくりにと、休みを取ってCBRを引っぱり出した。目指すは伊豆・箱根方面。しかし、今回のルートはいつもと一味違う。目的は、先月の宇川ツーリングのときに彼がよく行く「お勧め」として教えてもらったルート、勝手に名付けて“Route U”を経験してみることだ。
はやる気持ちを抑え、季節柄気温や路面状況を考えていつもよりかなり遅く家を出る。中央道をすっ飛ばし、須走ICから御殿場経由で乙女峠〜箱スカ〜芦スカ、そして伊豆スカイラインというルートは慣れたものだ。
この二週間前にも伊豆界隈は一人で走りに来ているのだが、その時に比べれば落ち葉も少なく走りやすい。平日なので車もバイクもほとんどなく、澄んだ朝の空気の中にくっきりと浮かび上がる富士山は息を飲むほど雄大だ。
その富士全景が目の前にパッと拓けるのが見えると、すぐにスピードを落とす。そうしたビューポイントにはたいてい行楽客が車を停めているからだ。案の定、車から降りてカメラを構えているカーキ色の老人たちがうじゃうじゃといて、こんなに誰も彼もがカメラを向けたらさすのが富士山も肖像権を主張しだすのではないかと思うほどだ。


気温も思ったよりはるかに高く、ゴアウィンドストッパーのインナーにメッシュのツナギ、上からナイロンのジャケットという出で立ちでも全く寒さは感じない。貸し切り状態の伊豆スカを気持ち良く飛ばし、冷川ICで伊豆スカイラインを降りると、ここから僕には慣れない道になる。宇川徹流では、ここから天城を越えて南伊豆へ向かうはず……と、ICから2Kmほどの県道59号線に入って、ワサビ畑の続く山道を天城湯ケ島へ向かって南下する。
とたんに、何か間違えたことに気づいた。道は一車線どころか車とすれ違うのもやっとの細さになり、そのまま山深くの峠へ分け入っていく。ほどなく、鬱蒼とした山林の中を、ハイビームで対向車を警戒しながらうろうろと進んでいく羽目になった。
こんなじめじめしたところを宇川徹麾下のライダー集団が意気揚々と進んでいく光景はとうてい想像できないので、明らかにルートを間違えたに違いない。後で地図を確認し、宇川ルートは県道12号線を直進して修善寺まで行き、そこから414号線を南下するのだろうとあたりをつける。
ようやくその414号線に合流し、「天城越え」の道の駅で一息ついて出発する。天城は小説にも演歌にも歌われる、鎌倉時代から続く伊豆半島南北をつなぐ難所だ。しかし、国道の整備された車やバイクでそんな気配を感じとるのは難しい。さっき通った県道の方がよほどの難所に感じてしまう*1
河津へ入り下田に近づくと、峡谷を直径80mのループで二回転しながら下るという「七滝ループ橋」がある。これがほんとのコークスクリュー、と期待していたのだが、その手前の天城峠からずっと切り出した杉の幹を満載したトラックに行く手を塞がれていて30Km巡航で、急降下を楽しむどころではなかった(まあそれが法定速度なんですがね…)。

下田に入ると、傍を流れる稲生沢川が急に広くゆったりとした流れになって、河口が近いことを思わせる。思わず、中学生の時に歌った合唱組曲筑後川」の“河口”を思い返しながら走り続けると、道端にぽつぽつと場違いなシュロの木が出現。いよいよ伊豆南域に入ったことになる。
下田は小学生の時に家族と一度来たことがある。そしてここは、僕が大人への階段を一歩上がった場所でもある──とはいっても、初めてラーメンにコショウを入れただけのことだ(笑)。そのラーメンを食べた下田とうきゅう(よく憶えてるな)は驚いたことに健在で、目に映るメインストリートの雰囲気もあまり変わっていないように感じる。
この分だと初めてアワビというものに食欲を感じた(“大人はなんか美味しそうなもの食べるんだなあ”)あの店も……と探してみたい衝動にかられるが、自分がいまだにアワビを自由に食べられないオトナであることを感じて悲しくなるだけなのでやめにする。
下田市街を抜けて国道136号線を延々と進み、目指すは南伊豆町だ。ここには、宇川徹が特に勧めていたナイスな道、──マーガレットライン──があるはずだ。太平洋に面した海岸線を走り続け、景勝として有名な石廊崎をかすめて西伊豆へと続いていく様は、地図で見ているだけでも実に気持ちがよさそうだ。弓ヶ浜の海岸に座って自分の人生を猛省してみたいという誘惑をはねのけ、僕は136号から逸れて県道16号線へと入っていった。
(この項つづく)

*1:実際には現在車両で通ることができるのは整備された“新道”で、古い時代の路の雰囲気を味わいたければ西側の二本杉峠をハイクしたり、東側の旧道へ入り旧天城トンネルを通ってみるしかない。