夢の旅路(1)

Jet2004-10-26

Is this real life?
Is this just fantasy?
──僕は伊豆スカイラインの冷川ICに向かって、中伊豆の狭い山道をせっせと1000RRをくねらせながら走っていた。曇天の隙間から時折太陽が除き、心配されていたほど冷たくもない秋の空気がヘルメットのシールドの中を満たしている。
しかし、今日の僕はあたりの風景なんて全く見ていない。目に入るのは、目の前を走っているちょっと変わったCBR600F4i──きらびやかな塗装に、リアウィンカーをテールランプの両脇に移しているせいで四ツ目のように見えるリアビュー、そして後輪をしなやかに上下させている赤いリアサス。
そう、僕の目の前で一緒にワインディングを駆けているのは、GPライダー 宇川徹なのだ──。


「宇川さんとツーリングにいきませんか?」──行きつけのショップからそんなメールをもらったのはわずか数日前。咽から心臓が飛び出さんばかりになり、もはや残りの仕事が手につかない。──宇川徹とツーリングだって!
彼がツーリング好きなのは知っているし、そのバイク仲間との交流はかつての公式サイト「Heat Up UKAWA!」やバイク雑誌の記事などで聞き及んではいた。しかし、自分がそんな経験が出来るとは(いつかはと願ってはいたが)思っていなかった。しかもメールの末尾には「“走り中心”のツーリングです。ツナギで来てください。みんなで宇川さんをやっつけましょう!」というようなことが書いてある。僕みたいにまともにスポーツバイクに乗り出して2、3年のバイク乗りがGPライダーを追うだって?もはや僕の頭の中は文字化けを起こしている有様だ。
眠れぬ夜を過すこと数日(笑)、ついにその日がやって来た。集合場所に集まってみると果たせるかな、周りは年季の入ったツナギとボロボロにただれきったハイグリップタイヤをまとった猛者たちばかり。こりゃあ勉強になりそうだ、と身震いしながら宇川徹との合流地点である中央道の談合坂SAに向かう。
宇川徹が“フツーのあんちゃん”であり、意外とそこにいても気づかない雰囲気の人だというのは聞き及んでいた。しかし、それは身構えていない場合の話だろう。PAに入り、二輪置き場に雑誌で見たど派手な塗装のF4iがさりげなく止まっているのに気づいた僕は、自分のバイクから降りるや否やすぐ彼の姿を見つけた。雑誌で見たのと同じ、Alpinestarsの赤いジャケットに革パンツ──宇川徹だ。背丈は僕と同じくらいだが、革パンツに包まれた太股はとんでもなく鍛えられたGPライダーのそれだ。

まいった。自分は一応クールな大人のつもりだったが、こんなにミーハーだとは思わなかった。目の前でフツーに話しているこの世界ランキング3位のGPライダーを前にして、会ったらまず言おうと思っていたことが一つも出てこない。自分の質問は何もかもがばかばかしいことに思え、「どうしたらすでに何百回も聞かれたのと違う質問ができるのか」*1なんてさらにくだらないことに頭を悩ませているうち、時間は刻々と過ぎていく。
もちろん一人のファンとして、彼に会ったことがないわけじゃない。トークショーやホンダの壮行会で生の姿は目にしているし、イベントで握手したことだってある(“ランキング2位を取り戻してくださいよ!”)。しかし、完全にプライベートな時間を共有するとなると全く話は別なのだ。
そうこうしているうちに、24人もいる大量の参加者はそれぞれが望むスピード(!)によって3つの集団に分けられた。最速のトップグループを率いるのはもちろん宇川徹。タイヤドロドロの猛者たちが間髪を入れず宇川組参加を表明する。そして、気がつくと宇川組に手を上げている自分がいた──。
しばし予定を確認した後、とりあえず須走ICまでと3グループに別れてSAを出発。そして僕はいきなり「僕は高速では飛ばしませんから」と話していたこのGPライダーの洗礼を受けることになる。
「ってうわおい、“とりあえず”○○○Km/h巡航なのか!」
──この項つづく

*1:『Cycle Sounds』誌12月号で、ヴァレンティーノ・ロッシにインタビューする際にマイケル・スコットもこう思っていたと書いている。意味のある質問というのは難しいものだ(笑)。