Around and Around

交通安全運動週間に「バイクを封印する」とか書いたものの実はそんな気は無かったのだが、多忙のうちに本当に乗らずじまいになってしまった。しかもキャンペーン期間終了後の週末も秋雨前線に封じ込められ、なんと3週間以上もバイクに乗っていない。
もはや禁断症状も限界で、だんだん弱った虫みたいになってきた。そこで秋霖が一瞬途切れると知るや、僕は仕事をムリヤリやっつけて休みをとった。せっかくの平日なんだから遠出でもと思ったが、色々あって出立は午後。「ええい、バイクを寝かせられればどこでもいい!」(笑)と近場の奥多摩へ向かうことにする。
降り続いていた雨の影響も少なく、快適な路面状況の中を奥多摩へ。しかし、3週間もブランクを挟んでしまっただけあって、今一つ身体がついてこない。視線の移動が遅れたり、上半身に力が残ったり。
周遊道路へ入り、身体に刺激をといろいろ緩急つけて走ってみるものの、まだリズムに乗れないまま。仕方なく数えるほどしかバイクのいない都民の森へマシンを放り込んで休憩する。
午後も後半にさしかかっただけあって、さすがに空いている。周遊道路全体を通しても20台くらいしかバイクがいないんじゃないだろうか。すでにあたりはくすんだ夕方の日差しに包まれはじめていて、訪れるもののないひんやりとした都民の森は、もの寂しささえたたえている。
その時、この人気のなさが僕をちょっと刺激した。「誰もいない──今ならできる?」ちょっといたずら心を起こして、僕は缶コーヒーもそこそこに1000RRのエンジンをかけると、都民の森を出てすぐ左折──「小僧区間へと向かった。


通称「小僧区間」とは、奥多摩周遊道路のうち南面(五日市側)終端のごく一部を指す。命名の言われは小排気量レプリカで膝すり走行を繰り返す「2スト小僧」の占有区間であることから来ているとも言われるが、全長9Kmの周遊道路の中でも最も急勾配でタイトなコーナーが続き、ハイペースで下る場合にはちょっと勇気のいるエリアだ。
休日ともなれば、その名にたがわず往年の2ストレプリカや400ccレプリカ、時にはナンバーのないレース用車両までが好き者たちによって持ち込まれ、そのクイックな車体にものを言わせてこの区間をハイスピードでローリングし続ける。まったりと走るツアラーやネイキッド、大柄なリッターバイクの大部分はここに入るや否や小排気量の彼らに信じがたい勢いでケツをつつかれることになる。路面には常にどこかしら生々しいオイル痕(と、それを示すガムテープで路面に書かれた“←オイル”の文字)が残り、周遊道路のもっとも“過激”な側面ともいえる。
ずっと奥多摩に通いつづけてきても、彼らのようにこの区間のみを延々と周回するような走りをしたことはなかった。むしろ区間が短すぎて、「何が面白いんだろう」と思っていたのも事実だ。しかし、多くの人が集まるということは、そこには何かがある。人っ子一人いない今日は、それを確かめるいい機会というわけだ。

ギアを一速に放り込み、小僧区間を駆け上がる。すぐに浅間尾根駐車場に到着するとすぐまた引き返し、数馬駐車場を目指す。数往復もしないうちに、僕はこの区間がなぜこんなにウケるのかに深くうなずいていた。
──この区間、リズムがずっと同じなのである。
奥多摩周遊道路を楽しむ際のネックは、この道が区間によって全く表情を変えることだ。長いストレートと見通しのいいコーナーが続いて走りやすい青梅側──いわゆる「大人区間」、そこを抜けると月夜見第2駐車場から尾根付近まではやや狭くアップダウンが激しいエリアになり、センターポールが増えてタイトな道幅を余計圧迫感のあるものにする。そこを抜けると急勾配の低速区間であるこの“小僧”だ。この各区間でのリズムの違いは、全線を通して走ると結構神経を消耗させる。
その点、この小僧区間だけはどのコーナーも同じ雰囲気で、安定したリズムで走ることができる。同程度の勾配が続く中に低速コーナーと短いストレートがほどよく連なり、「えっ?」と思わせるような急な変化や複合コーナーがない。白眉となる唯一のロングストレートは前後をほどよいRのコーナーで繋がれていて、まるで「いま最終コーナーからホームストレートへ!」とか「ストレートエンドでのレイトブレーキング!」みたいな気分でクリアして遊ぶことができる(←アホか)。そして、集中力の切れる前にちゃんと終点が来る。
なるほど、面白い──。工夫すればこの区間、もっともっと早く走れる気がしてくる。1000RRではコーナー進入時の倒し込みや脱出時のアクセルワークにかなり気を使わなければならなかったが、サスセッティングさえちょっといじればまた全然違った感じになるかもしれない。
リズムとレイアウトを掴んで、タイトな下りもすっかり楽しめるようになった。往復を繰り返すうちに進入速度やライン取りに関するアイデアが次々浮かんできて、僕は気がつけば飽きもせず長時間走りつづけていた。
固かった身体もすっかり調子を取り戻し、今日は左右でムラのあったタイヤも端までキレイにアプレージョンが出て、すっかり「乗れてる」気分だ。我ながら大人げない遊び方にちょっと罪悪感を感じるけれど、今後も多少のウォームアップ程度に往復するのはいいかもしれない、などと調子のいいことを思うのもこの区間の魔力にはまったということなのか。
日もだいぶ傾いてきた。ケーブルカーのように僕と互い違いに小僧を往復していた赤いGSX1300Rが、実はじりじりと僕との合間を詰めてきている。ワオ、このタイトな区間であんな猛禽を飼いならすライダーに後ろにつかれてはたまらない、と僕はさっさと周遊道路を後にしたのだった(笑)。