封印の時

夢を見た。僕はバイクに乗って木立の間の舗装路を飛ばしている。山中の空気は澄み、風はナイロンジャケットを通して冷たく肌を刺す。「寒っ」と僕は思わずバイクの上で身震いする──。
寒いだって!?目が覚めた僕はびっくりして、短い夢を反芻する。まだ9月だよな、残暑だってきついよな。テレビをつければ都心は30度を超えるかもなんてあきれたように報じているじゃないか。僕はほっと自分に言い聞かせるが、心の隅には焦燥感が残る。
こんな夢を見た理由はわかっている。僕はバイクに乗る一番いい季節があっという間に過ぎ去るのを恐れているのだ。なぜなら、この暑くもなく寒くもない絶好のハイシーズンを利用して、昨日から官憲が「秋の交通安全運動週間」とかいう違反金ビジネスを展開しているからだ。


過去に何度もこの期間にサイン会に招待された実績から、この安全運動週間中は僕はバイクを封印する。春は5月の連休中を、そして秋は暑さの引いた秋の入り口というバイクにとって一年にわずかしかないベストシーズンを商売に利用する官憲のマメさにはいいようのない怒りすら感じるが、こちらは手の内に乗らないようにするしかないのだ。ある意味「この期間にバイクに乗ったらとっ捕まえますよ」と公言しているのだから、親切と考えることもできる。
そうこうしているうちに10月がやってきて、シーズンは残り2か月ほど、うち本当に快適なのは1か月。考えるだけで悲しくなってくる(GPも終わるしね)。夢も見ようというものだ。
でもちょっとだけ、ちょっとだけなら。夜中に出て早朝走って、官憲がエンジンをかける頃に帰ってくるというのはどうだ──なんてムズムズするこの飛び石連休なのであった。