日はまた昇る

登場!とんがりRCV
ホンダを応援していて面白いことの一つは、その強大な開発力にまかせて頻繁に投入してくるこれ見よがしな改良型マシンを楽しめるところにある(そしてまたNSRの10年間が示しているように、時にその改良がこっぴどい失敗に終わるのも、GPドラマの面白さだ)
もちろんマイナーなモデファイは毎レースのように行われているのだろうが、エンジニアなどではない一般のGPファンにとって、外観からはっきりわかる“新型”の登場は胸をときめかせる材料の一つだ。
2年連続で圧倒的な勝利をもぎとったチャンピオンマシンRC211Vを引っさげて「Emotional Technology」キャンペーン*1を始めた途端、ホンダはレーストラックでヤマハの後塵を拝し続けることになった。怒りに震えて'04型にテコ入れをしてくるのは時間の問題だ、と楽しみにしていたところについに登場したのは、凶器のように尖ったテールカウルにフラッシュサーフェイスされた2本のエギゾーストパイプを持った新型だった。
“スタンダード・タイプ”で後バンク2気筒を集合させていたものを、2-1-2にしたとは考えにくいから、5気筒に4本出し──?そっち方面のメカニズムにめっきり弱い僕には理屈がわかりかねるが、点火時期の大幅な変更がなされたことは間違いない。ランディ・マモラのレポートによれば、5気筒を僅かずつずらして爆発させることで“ビッグ・バン”型の特性を持たせ、よりコントロールしやすくタイヤにも優しいモデファイがなされているのだろう、とか。
唯一その“ビッグ・バン”RCVが与えられたことでエースとしての立場が明確になったアレックス・バロスが、前戦リオで見せた復調の兆しをさらに確固たるものにできるのか、その期待を中心にドイツGPは始まった。


激走!とんがりRCV
ハンガロリンクと並んで“ミッキーマウス・サーキット”を代表するザクセンリング。そのあだ名の通り、まるで円を組み合わせたような深く小さいコーナーが連続する。PS2のゲームなどでやってみるとよくわかるが(笑)、ほとんど旋回しているだけのジェットコースターのようなレイアウトだ。ライダーはシートに尻をつける暇もない。
コーナリングだけなら早いよ、という強みを徐々にはっきりさせ始めたGSV-Rを駆るケニー・ロバーツJr.が先頭集団からあっさりと後退を始め、マックス・ビアッジヴァレンティーノ・ロッシ、そしてセテ・“顔痩せ体操”・ジベルナウ*2が続くのは前戦リオと同様の展開だ。
そして、リオの驚くべき番狂わせはもう一つ繰り返された。セテ・ジベルナウがブリッジをすぎた下りストレートエンドでのスリップダウンによってグラベルを舞う。もはやおなじみのパフォーマンスめいた失望のアクションを見せて歩き去るジベルナウを見ながら、僕は画面の中のビアッジに「おい、チャンスだぞ、わかってるか!」と電波を飛ばす(笑)。
目を移せば、直前にカルロス・チェカも転倒しているせいでたなぼた3位を走っているのはロリス・カピロッシだ。しかし、一蓮托生とばかりコースを去ったトロイ・ベイリス(“えっと、俺のマシン、動くかな?もうダメ?ダメ?”)と並んであっさり転倒し、“ツインパルス”D16に初表彰台がもたらされることはなかった。
そんな中でビアッジを今にも接触せんばかりの勢いでつっつき続けるロッシだが、そのM1の挙動は決して安定していない。切り返しでラインを変える度に前後輪をまるごとぶるぶると震わせ、時にハイサイドばりのウォブルを押さえ込みながらマシンをコントロールし続ける。──これはロッシが終わるのは時間の問題か?あるいはビアッジがプレッシャーに負けるのが先か?と考え始めた矢先、後ろにつけるニッキー・ヘイデンの背後に現れたのだ──例のとんがった新型が。
時に250ccよりもMotoGPクラスの方がラップタイムが低くなるザクセン用にわざと出力を落としたとも伝えられるバロス車は、ジベルナウとの接触がもたらしたという序盤の出遅れを挽回し、1コーナーの進入でヘイデンよりもはるかに早くインに切り込み、3位に浮上する。
タイトなレイアウトのせいでカメラアングルが目まぐるしく変わるこのコースでは、「さすが改良型、速いねえ」というような分かりやすさは見て取れない。しかし、激しいアップダウンが続く中では、前後荷重のバランスとトラクションのかかり方がうまく行かなければ、マシンコントロールは相当厳しいだろう。その点、急激な追い上げを見せてきたにもかかわらず、バロスがどこかで無理をしているような様子は一切ない。
ビアッジをかわし一旦トップに立ったロッシがタイヤを終わらせてずるずる後退し始めると、ついに画面に映るのはホンダのみとなった。どこかで見た風景──再びRCVカップのときがやってきたのだ。

笑ってもよい
終始安定した走りを見せたビアッジは終盤、隙を窺うバロスに対しインを締めつづけて優勝を勝ち取った。ロッシの激しいプレッシャーにもライディングを乱すことなく走りきった姿には、気温やコースの状況を知り尽くした上での計算通りのライディングが奏功したように見える。それは、92年のGP参戦以降ここザクセンで6回表彰台に上がっている(うち2回勝利だったか)ビアッジの豊かな経験が充分に生かされた結果かもしれない。
新型RCVを駆るバロスは2位に甘んじたものの、メンタリティの面からも満足の行く結果だったことがうかがえる。ホンダの表彰台独占、なによりレプソル・ホンダのダブル表彰台、そして本当に久しぶりに見る立川監督の笑顔──。ようやく「笑ってもいい」許可が出たように、HRCのピットに一気に暖かみが戻っていた。
振り返ればチェカ、メランドリ、そして誰もが98年の加賀山を思い出したに違いないノリックハイサイド*3ヤマハ勢は総崩れとなり、完走したM1はロッシだけだ。反対に比較的安定した走りを見せたRCVは、これがユニットプロリンクの真骨頂なのか、それとも今戦から全車に導入され、ようやくチャタリングの問題を解決したという新フレームのおかげなのか──。
ジベルナウを抜いてロッシと1ポイント差と迫ったビアッジによってさらに加熱するチャンピオン争いと並んで、ホンダVSヤマハというコンストラクター同士の競争もさらに見どころのあるものになりそうだ。ロッシの得意とする次戦ドニントンと、レース毎に相性の善し悪しを見せつけるM1がどうでるか。イギリスGPはもうすぐだ。

*1:「すべての技術は、感動のために」をキャッチコピーに2004年3月から始まったホンダのADキャンペーン。RCV、GL、Forzaなど同社のブランドセッターとなるマシンのイメージフォトを大々的に露出展開している。

*2:某巨大掲示板に書いてあったのだが、これには久しぶりに爆笑してしまった。あれ、スペイン語で「オラ、オラ〜」と挨拶したりしてるんだろうと思うが、以来笑いなくしては見れない…。

*3:加賀山ロケットについてはこちらを参照。
http://www.geocities.co.jp/MotorCity-Race/6596/