ボローニャからの贈り物

Jet2004-06-11

遅れてきた封筒
ボローニャからの」とタイトルでは書いているが、実際にはボローニャではなく東京都目黒区からの贈り物だ(笑)。ある日郵便受けを開けると、ドゥカティ ジャパンから届いていたのは、もうすっかり忘れていたDucati SportClassicシリーズのカタログ。SportClassicシリーズが発表された去年の東京モーターショー当時に行われていたWebでのオンラインサーベイに答えると、先着回答者5000名に進呈といわれていた正規カタログだ。
年が明けても届かないのですっかり外れた(自分以外にあんな長いアンケートに答えた人間が5000人以上いる!)のだと思い込んでいたが、封筒を開けると「イタリア本社での日本語データ変換にトラブルが発生し、復旧するのに時間がかかった」とかでえろうすんません、という内容の断り書きが入っている。
当時は未確定だったものの、結果としてこのタリオーニ時代の名車を現代に再生させようというプロジェクト──PaulSmartSportGT──はすべての市販化が決まり、2005年の販売に向けてすでに予約が始まっている。

僕がサーベイでもっとも高得点をつけたのはPaulSmart1000──1974年型SuperSport750の復刻だ。まあ今見たらたいていの一般人が顔を背けそうな大仰なバブル型ハーフカウルを纏い(それでもそのスクリーンは現代のモーターサイクルらしく低くスラントしている)、往時のシルバーとミントグリーンの塗装を再現したこのモデルに魅かれるのは、当然ながら一番“速そう”だからだ。


まるで一卵性
ところが、改めてカタログを見て驚くのは、このレーサースタイルのPaulSmart、生粋のカフェレーサーのSport、そしてコンチネンタルハンドルのツーリングネイキッドGTが、すべて細部に至まで同スペックだと言うことだ。
もちろん、フェデリコ・ミノーリ自ら言っているようにドゥカティはそれほど多くのエンジンをラインナップする体力は無い“小さなメーカー”だ。だからこの3台は'04年型のスポーツバイクシリーズに積まれているツインプラグ化された空冷DSエンジンを使用した派生車として設計され、フレームだけでなくフロント周りのエクイップメントまで3台ともすべて共通だ*1
しかしながら、外見上は明らかに味つけの違うこの3台が、圧縮比(10:1)や出力(84HP/8000rpm)ホイールベース(1425mm)やキャスター角(24°)などが共通であるのみならず、車重までが1Kg以内の差に収められているとなると結構驚かざるを得ない*2
ここまでメカニズムが共通であるとなると、3台を乗り比べた時の違いがどう出るのか、僕にはなかなか想像がつかない。もちろんそれぞれのライディングポジションが大きく違うのだから、それだけでもインプレッションは相当に異なったものになるのかもしれない。だが、PaulSmartにレーサーとしての“熱さ”を求め、Sportにカフェレーサーとしてのあの“ちょっと無理があるポジションで速く走る”愉しみを感じ、GTにゆったりした乗り味を期待していいものなのか、迷うところである。
3台のうちでもっとも構造が異なるのはGT1000だ。他の2台が鋼管の美しく湾曲したスイングアーム左側のみの支持でオーリンズ製モノショックを配するのに対し(これがまたカッコいい)、GTはリザーブタンクを持たずスプリングもブラックとしたクラシカルなスタイルのツインショックだ。
また、マフラーもGTがクローム仕上げの左右2本出しで、他2台は右側へ2本のサイレンサーが集まる構造というのも、ハンドリングに違いを生むだろう。とはいえもっとも顕著にライディングに影響するのは、GTに装備された幅広のコンチネンタルハンドルかもしれない(GTのみビポストというのもあるが、これはまた別の問題だろう)

スタイリッシュさへの憧れ
なんとなく速そうなものにすぐ魅かれる今の僕にとって、購入するとなったらすぐ手を上げたいのはPaulSmartだが、その実一番カッコいいと思っているのは'73年型Sport750のレプリカであるSport1000だ。
基本構成はPaulSmartと共通だが、カウルの無いぶん、低く構えたクリップオンハンドルとアルミ板を折り曲げたような武骨なステーの先に留められたブレーキとクラッチのフルードタンクがなんとも挑発的だ。グリップの先端から伸びる小さなクロームメッキのミラーも、保安部品は極めて控えめというカフェレーサーらしいカスタム感を醸し出していてそそられる。極め付けはイエローのボディカラーの中央部を走るレーシングストライプだ。
ハロルズギアあたりの革製品とハーフキャップに身を固め、オープンカフェにでもこいつで乗りつけたらさぞかしカッコいいだろうな──と思ってしまう。バフがけされたトップブリッジにマレリのアナログホワイト2連メーターも、ぞくぞくするほどの所有感を誘う。
“プラスティック・バイク”たるホンダ車を愛し所有する身とはいえ、このSportClassicシリーズの細部の仕上げには「こいつと時間を過ごしてみたい」と思わせる魅惑が満ちあふれている。ライテクなんぞ追及せず、自分を投影する“スタイル”としてバイクを選ぶなら(そっちの方が大多数だとは思うけど)ドゥカティというブランド抜きにしてもこんなに魅力的な選択肢はない。ビッグスクーターなんぞを飾り立てて悦に入っている連中も、こうしたものを見たら“普通の”モーターサイクルに戻ってくるかもしれない。
ああ、遥かなるセカンドバイクの夢よ……と思いつつ同梱されている価格表を見る。PaulSmart1000、178万5000円。Sport、157万5000円。GT、136万5000円──。さきのサーベイで「いくらなら適当か」という質問にドゥカティブランドとしての価値を含めて「150万」と回答した僕にとって、まあ水準の価格とは言える*3
でもそれは買わないとわかっているから言える話(笑)。もし自分がメインバイクとしてSportClassicシリーズを選ぶとしたら──やっぱり高いかもしれない。

*1:このシリーズの登場で歓迎すべきは、現在のドゥカティラインナップを支配するテルブランチのデザインテイストにどうしても馴染めない人に、低い製造コスト(たぶん)で新しい選択肢を提供することになるということだろう。タンブリーニデザインの998が「Final Edition」として限定で販売継続されているのも、そのあたりの配慮があるような気がする(決してマトリックスの影響だけではないと思うのだが)。

*2:PaulSmart1000が193Kg、後の2台は192Kg。

*3:でも性能が変わらないのにPaulSmartの価格は高すぎるような気もする。たぶんアルマイト(風?)装の青いフレームとかでコストがかかっているのかもしれない。それか実際には何らかのチューンが?コンロッドの材質が違うとか……。