Safety In The Shell

Jet2004-05-13

強迫的セイフティ
“安全”というのはある意味「中毒」だ。一度プロテクター入りジャケットや脊椎パッドを使ってしまうと、それ無しで走るのはとても不安になる。脊椎パッドなど大げさだとは思っても、「40Kmで走っていたのに転倒時にガードレールの柱に背中からぶつかり半身不随になったライダーの話」とか、伝え聞くまことしやかな事例が頭を去来して、もう装着せずには落ち着かなくなる。
もちろん姿勢を矯正するなど正しいライディングへの効果も高いし、何よりそれ専用にデザインされたスーツやジャケットは動きもよく、バイクを操作する上でこの上ない快適な装備なのだが、慣れるとそれらがもたらす“安全への安心感”が自分のライディングを左右してしまうほどにすらなる。
というわけで、革ツナギを揃えたはいいがそれに合う脊椎パッドを持っていなかった僕はしばらく戦々恐々としながらバイクに乗っていたのだが、色々悩んだあげくやはり大御所Daineseを買うことにした。僕は「ライディング用品はGPライダーをスポンサーしているものを優先して選ぶ」というミーハーかつ明確なルールを持っていて、それは買い物に悩みやすい僕を吹っ切らせるしっぽ切りの基準でもあり、またそういうもので周りを固めることでライテク修業に言い訳をきかなくする追い込み策でもある(笑)。
実際RSタイチの「フレックスバックプロテクター」や、ダイネーゼの輸入代理店だったことを生かしてかまるまるデザインをコピーしたコミネ製プロテクターの方が安かったのだが、タイチはすでに日常用のタフFICSバックプロテクターを持っているし、コミネのものは実物を見たらダイネーゼよりも明らかに分厚く、デッドコピー感漂いまくりである*1
ありがたいことに“少しくらい高いからなんだ、ビアッジさんも使うダイネーゼにしろ”と後押ししてくれる妻の助言もあって、“Back Space 2”をネット通販のSEED DIRECTで注文。ほどなくして届いたのでご開陳、というわけである。


着るようにフィットする
多少値の張るダイネーゼだからといってプロテクション能力に大きな差があるとは思えないが、さすがにフィット感は抜群だ。Tシャツの上に装着して鏡を見ると、甲羅のようなプロテクター部分が脊柱起立筋に沿ってゆるやかにS字を描いてフィットしているのが分かる。これを選んだ理由の一つだった幅広いウェストベルトのおかげでより体勢が締まって気分がよく、腰の余計な負担を軽減してくれるというのもうなずける。
このウェストベルトは注文の際の“賭け”でもあった。このBack Space 2にはMとLのサイズ指定があって、どちらにしたものか結構悩んだのである。僕のツナギはLだが、このパッドの説明には「L(ヨーロッパサイズ)」と書いてある。
大体において脊椎パッドのサイズ違いはシェル部分の寸法ではなくこのウェストベルトの長さを意味しているのだが、SEED DIRECTにメールで訊いたところ「ツナギがLならLでいい」との回答が。ムムム……そう言われると余計不安になってきた。間近で接したことのある人なら西洋人の体の「スケール感」がどんなに大きいか知っているだろうし、それと169cm、ウェスト29インチ*2の僕が同じLサイズを共有できるとは思えない。
その不安を裏付けるべくさんざん検索したあげく、やっと一件だけ「Lサイズを買って後悔した」という記述のあるバイク乗りのサイトを発見。筆者氏がどんな体形なのかは書いていないが、文章から勝手に中肉中背だと判断(笑)。ままよ、と僕はMをオーダーしたのである。
結果としてはバッチリ。ベルトは体の前面で丁度よく自然に合わさる。これがLだったら間違いなく脇に余って胴まわりに余計な厚みを増やし、ツナギが少し窮屈になっていたに違いない。腰の上のヒンジ部分もよく動き、プロテクターがくいくいと左右に曲がる。体のオフセットにもすんなりついてきてくれそうだ。太りじしでない限り、標準的な日本人体形ならMで十分、と断言しておこう。

ハイサイドは真似するな
それにしても、こうした製品情報はメーカーや輸入代理店にきちんと出してきて欲しいものだが、ダイネーゼに関する情報ははっきりしたものがとても少ない。公式サイトのラインナップも国内の流通と少し違うようだし、国内サイトを検索して得られるBack Spaceの種類だけでもT1、T2、2、S、03と雑多で、しかも違いが明確ではない。
色々調べたところ、恐らく現在最新のモデルはシェルの内部にアルミハニカム構造を採用した“Back Space 03”だ。これは昨年ビアッジがプロモーションイベントをやっていたのがMotoGPのサイトでも報じられ、記憶に新しい。思うにそれ以外は恐らく廃版で、僕の入手した“2”もひょっとしたら国内流通は在庫限りなのではないだろうか。そもそもT1T2は“2”の旧モデルのそれぞれM、Lというサイズ違いだし、“S”はシェル部の小さい女性用なので買う人は注意が必要だ。
さていずれにせよ、「良いものを手に入れた」のだから、次はまた走りに行くだけだ。幸いにしてシーズン開始以来なんとか週一回ワインディングに行く生活を続けられているし、つじつかさ大先生の本による伝法のおかげでライディングもかなり改善されてきた。目標は「自由」──生存本能的な正しい恐怖感をのぞき、一切のストレスなくバイクを操っている状態──である。さてさて、この“安心感”を片手にいかほど近づけるのか。

Back Space 2のパッケージには、7cm×12cmほどの小さなパンフレットがついてきた。開くと、いきなりダイネーゼがスポンサーするよりによってこの2人、マックス・ビアッジ(“彼の走りを勝利に結びつけるためにダイネーゼを信頼する、モーターサイクル世界選手権のスター”)ヴァレンティーノ・ロッシ(“はちきれんばかりに元気で予測不可能、しかしこと信頼性となればモノを見る眼は確か”)が仲良く紹介されていてニヤリとする。
その下にはナストロ・アズーロのNSR500で派手にハイサイドを決めて吹き飛ぶロッシのコマ送り写真(笑)。う〜ん。GPライダーと同じ製品を使う満足感は大いにあるが、こいつは真似しないようにしたいものだ。

*1:コミネ製脊椎パッドも従来のダイネーゼコピーから、独自デザインで価格をかなり安く抑えた新型に入れ替わりつつあるようだ。この新しいパッドが安いのは、シェル部とショルダーおよびウエストのベルトが一体化されたベストのような構造になっているからだろう。
試着してみたがフィット感ではハーネス使用のものとは比べ物にならないので、ツナギのインナー用途としてはお勧めしない。ちなみにこれはホンダモーターサイクルジャパンの純正プロテクターにもなっている。

*2:そうとも、革ツナギのためになんとか29インチにしたのだ!この、減重量は大したことないが体験的には壮絶だった男だてらのダイエット体験は、そのうち詳しく書くかもしれない。