総員一層奮励努力セヨ!

自滅への道
“Talent”というのはこういうものなのか。今夜の列島は熱心なる国内GPファンの嘆息で埋め尽くされた(嘘)ヴァレンティーノ・ロッシヤマハ移籍後初戦となる南アフリカGP、PP獲得*1。1分32秒647。昨年RCVで記録したサーキットレコードを0.8秒近く縮めて。一緒にLive Timingを見ていた妻など、「腹が立つからもう先にやっておく」などと言ってグリッドでカメラに向かって両手でちまちま投げキッスをするロッシの真似をしてうろつき回っている有様だ。
クラシックの世界に、ウラジミール・ホロヴィッツというピアニストがいる。僕はこの手はてんで門外漢なので詳しい解説は他の論者やはてなのキーワードに譲るが、この人はピアニストの世界にあっては完全なる“神”として君臨していたらしい。彼の存命中、アメリカに優れたピアニストが育たないのはひとえにニューヨークに住むホロヴィッツのせいであるとも言われていたそうだ。アメリカの若いピアニストはみなその未熟な時期にホロヴィッツに出会い、彼の魔力の虜になってしまう。そして自己の才能も省みずにホロヴィッツを模倣し、自滅する、とまで言われていた*2
もはやロッシを見ていると、彼もこのホロヴィッツの領域に近づいているような気がしてならない。ロッシは、他の経験豊かなライダーがこれまでに築いてきた走りの方法論や経験則を片っ端から崩壊させてしまっているように見える。僕たちファンが釈然としないように、GPライダーたち本人はもっと首をかしげているのかもしれない。「なぜ、あいつはこんなタイムが出せるんだ?」と。
ホロヴィッツの演奏はすべてのピアニストから憧れられるが、実際に勉強の手本にしたら一巻の終わりだと広く信じられているとか。同じように、もはやロッシの“走り”に追いつき追い越せと考えるのは危険なことであるような気すらする。ロッシ車のテールカウルはギリシャ神話のゴルゴンだ。すべてのライダーは、彼の後ろ姿を見てはならない。もし見れば、自分のマシンがたちどころに動かぬ石のように感じられるに違いないからだ。


復活のどん尻メーカーたち
──と、とりあえず予選グリッドの驚きを表しておく。しかしまだ希望、それに他にも見どころはたくさんある。マックス・ビアッジセテ・ジベルナウ、そして躍進著しいコーリン・エドワーズらRCV勢(玉田はブリヂストンと一蓮托生なので、僕の中ではHONDA勢というひと括りからは外れている)のタイム差だって髪の毛一筋ほどのものだ。
そしてなにより、カワサキを一気にセカンドローに押し上げた中野真矢のスペクタクロな活躍と、グリッドは比較的落ち着いてしまったがタイム的には破格の進歩を遂げているGSV-Rとケニー・ロバーツの復調もファンとしてはうれしい限りだ。これは、フライ・バイ・ワイアなどの電子制御にあきらめをつけた結果なのか、それとも、かのアーブ・カネモトがチームに加わったことが極めて素早く結果をもたらしているのか。いずれにせよ、今シーズンはグリッド紹介で腕組み&仏頂面以外のロバーツが見られそうで、楽しみだ。
他にも、どこか怪我したとしか思えない公式テスト以来のトロイ・ベイリスの低迷っぷりとか、もはや言葉もない“例のあの人”とか*3最下位のファブリッツィオ──誰お前?──とか、目を向けたいところは沢山ある。

Dornaの陰謀?
ファブリッツィオはWCMの臨時ライダーらしい。次戦からは2人のライダー──一人はクリス・バーンズ──でフル参戦とか。どこをどうネゴをつけたのか、昨年のYZF-R1ベースのエンジンで引き続きグリッドに立つべく、ドルナを説得したのは大したものだ。
おそらく、ドルナとはこういう取引があったのではないか、と思いっきり憶測してみる──WCMは今年の後半あるいは来期から、MotoGP参戦を断念したKTMが開発&完成済みのV4エンジンを供給してもらって参戦する心積もりだ。ドルナはMotogGPのF1化を狙っているとのもっぱらの噂だし、エンジンコンストラクターとフレームビルダーとチームが別々、という前例ができるのは願ってもないことだ。WCMをKTMエンジンにハリス(あるいはモリワキ?)のフレームで走らせるために、ドルナはWCMの延命を謀っている──。
とまあこれは思いっきり妄想だが、いずれにしてもみんな「WCMって何を走らせてんだよ」と思いながら予選を見ていたに違いない。雑誌にも一向に取材されない謎のチーム、WCM。まあ去年はセイバーV4なんて化石2ストを平然と持ち出してきて走ったこのチーム、ネタ元&パドックの番狂わせとしてもっと注目されてもいい。
いずれにせよ、こんなことを書いているうち、あと24時間もせずに初戦の結果が出る。僕の言いたいことはただ一つだ。何をしてるんだRCV乗りたち!しっかりしやがれこのドアホ!

*1:ヤマハが最高排気量クラスでPPを取るのはいつ以来なのだろう?id:holow2さん、お願いします(^ ^;

*2:中村紘子チャイコフスキー・コンクール〜ピアニストが聴く現代』ISBN:4122018587 中公文庫

*3:ここで簡単に僕の悲観的予測。例のあの人、悪くすれば開幕戦で転倒、その影響でしばらく低迷。あるいは、開幕からヘレスくらいまでで段々調子をつかんできて、順位を上げてくる。「お、いけるかな…」とファンが思い始めたところでドニントンに突入し、まったくまともに走れずに転倒or圏外。以後スランプから脱せず、「自国のファンの前では」ともてぎに賭ける。が、現実はそう甘くなく──。
↑さて、これくらい悲観しておけばあとは何があっても大丈夫かな(苦笑)。