かくも長き不在

Jet2004-04-08

奥多摩よ!奥多摩よ!
JR青梅線「東青梅」駅手前の陸橋を抜け、さらに奥多摩街道を上に通す要橋をくぐりながら坂を一気に下ると、空気の質ががらりと変わる。ヘルメットの中に吹き込んでくる風は、それまでの4車線道路のよどんだ排気ガスの匂いから、目の前に拡がる多摩川の上流──千ヶ瀬・長淵方面から吹きつけるひやりとした清廉な風に入れ替わる。奥多摩湖まではまだ20Km近くあるにも関わらず、僕にとっては、ここが“山”を感じる最初のポイントだ。
奥多摩周遊道路の開通を知り、僕は大急ぎで休みをとった。なぜなら、翌日から交通安全運動週間がはじまるからだ。毎年、春と秋のこの狩猟期にはバイクを封印することにしている。どこへであれ、一切乗らない。「道路交通が安全で円滑か」ではなく「どいつから金を絞り取れるか」という濁った目でうろうろしている官憲の中へ飛び込んでわざわざこづかいをくれてやるほど、僕はお人好しではないからだ──などといいながら、過去この期間にバイクに乗ると必ずといっていいほど切符を切られているから自制して、というのが真相なのではあるが。
ほぼ一年ぶりのように感じる奥多摩方面。CBR600RRでは実に納車以来初めてとなる。はやる心を抑えてペースを守りながら、久しぶりのすがすがしい空気の中を奥多摩湖を目指す。
前を走るアメリカンのライダーがしきりにこちらを気にしては、さりげなく風景を見るそぶりをして「俺はのんびり走ってるかんね」とアピールしてくる。常識的なスピードを守っていても、Spec-A管の攻撃的なエギゾーストノートと600RRの人相の悪い目つき、そしてリーンすると前走車にいきなり近づいてしまうコーナリングスピードは、かなりうっとうしく感じるのかもしれない。
「素直に“抜かせ”と合図してくれればいいのに」と思うが、自分だってミラーに凄そうなスポーツツインがぐいぐい迫ってきたらさりげなく服従のポーズ”をとったりする──おもむろに上体を起こしつつ片手を放して首を回したりして、戦意のないことを示すのだ(笑)*1。ライダーは誰も同じだな、と苦笑しながら挨拶してストレートでパスし、先を急ぐ。


まるで初めて乗るかのように
周遊道路に到着し、自制心をフルに発揮しながら様子見のワンラップ。暖かくなる午後を目指した甲斐があって、路面は完全ドライ。工事車両や路面のゴミ、そしてネズミ取りなどの兆候に目を配りながら頂上目指して上がっていく。頂上の風張峠付近は路肩や山肌に雪が残っているが、幸い路面には影響がなさそうだ*2
久しぶりに来た奥多摩周遊道路は驚くほど狭い。去年後半通った伊豆スカの感覚とは大違いで、まるでボーリングのレーンを走っているような気分になる。
しかし、不思議なことにどのコーナーも怖くない。これまでだったら苦手としていたいくつかのポイントも、あっさりと、しかもかつてのGS1200ssよりもはるかに早いペースでパスしていける。柵の中に突っ込んでいくようで嫌だったセンターポールつきの左コーナーも、遠慮なくポールの直前でスッとリーンを決められる。
──これが、CBR600RRか!と、まるで今日がファースト・インプレッションのような気分だ。これまで実はダルな乗り方しかしていなかったんじゃないかと思えてくる。慣れ親しんだタイトな周遊道路だからこそ、はっきりわかる。このバイク、すごく“曲がる”。まるで自分が上手くなったみたいじゃないか!
その分バイクなりにダラっと曲がろうとすると(それはそれで普通以上に曲がるのだけれど)ハイペースと合わずにヒヤッとすることも多い。コーナーでは積極的に体を動かして、効率のいい旋回具合を探っていかないと面白くない。ブレーキをリリースしてはフロントにだら〜んとぶら下がり、ぐいぐい曲がっていくのを楽しむ。そしてやっぱり立ち上がりのきっかけを失う(笑)。我ながら“鋭いリーン”とは言いがたい……。
様子見とはいいつつも少しづつペースが上がってしまい、気がつくとすっかり攻めていたりして我に返る。五日市側に降り、休業日の「都民の森」の駐車場前で一息ついてから再び登り、青梅側との往復を繰り返す。
だんだんペースが上がって、ほとんどシートに座っている間もなく、息まで荒くなってくる。気温5℃の表示にも関わらずジャケットの中には汗までかいて、何度目かの往路でついに音を上げ、尾根の駐車場に600RRを滑りこませて休憩した。バイクに乗ってて息があがって休むなんて初めてだ!まったく、こいつはまさにスポーツってわけだ。

まだまだ課題多し!
休憩しながらリアタイヤを確認すると、悲しいかなまだ端は残っている。僕は立ち上がりが下手くそで、トラクションをかけてタイヤを潰してないんだから当然だろう。
それより、この周遊道路ではギアが合わないのが問題だった。腕の立つ人が600RRに乗ると伊豆スカでも一速しか使わないというが*3、僕はあそこを二速でなんとかごまかしている。しかしこの狭い奥多摩では、さすがに二速では素早く立ち上がれないのだ。とすれば派手に一速をキープするか、コーナーでちゃんと回転合わせてシフトダウンするか……どちらも今よりもっと腕がいる(苦笑)。リッターのトルクに任せて走ってきたツケがいよいよ出たか、という感じである。600ccが難しいという理由に直面した訳だ。
日も落ちてきたので、心をクールダウンして帰路につく……つもりが、フロントタイヤを見てがく然。明らかに右側の方が左より未使用の幅が多いのだ。右コーナーでハンドルを押さえ込んでいるのは一目瞭然である。基本のセルフステアはどこへいった……。
そのことがどうしても気にかかり、周遊道路を出てしばらく行ったところで帰宅中止、おもむろにUターン。いつも以上に外足の膝や足首を意識しながら上半身をフリーにするよう心がけ、しばらく走り回る。
すると突然、600RRのタンク形状の素晴らしさがパッとわかったではないか(いや、頭ではわかっていたんだけどさ)。膝をタンク後端にきちんと添わせると、実に気持ち良くハングオフできるように作られている!絶大な安心感が体を包む。CBR1000RRの開発記事でも、鎌田学氏が「タンクの形状とステップのホールド感にはとことんこだわった」と言っていたが*4、600RRもそのトレンドが反映されているのだろう。僕は深くうなずきながらバイクにぶら下がり、「わおー」とリーンを楽しんでいた。そしてまたスロットルを開けるのが遅れ……。
ギアと回転数の見極めと立ち上がりのトラクション。右コーナーでのセルフステア──越えるべき山がまた見えてきた。これだからライテク修業は愉しい。早く10日後、禁が解けるその日が来ないかと思うばかりである(だから早く上手くなれって)

*1:ドゥカティとかTLとか、スポーツツインに乗ってるライダーを盲目的に恐れるクセが僕にはある。なんでだろう。彼らコーナーが速いからかな。

*2:青梅側はやはり各所で工事が行なわれて片側通行になっているので、走行には注意が必要だ。崩落地点も見てみたが、すごい。集落一つ分くらいの山肌がごそりとなくなっている。これは復旧に手間取る訳だ。工事の人お疲れ様、である。

*3:国内仕様のスプロケ41Tの場合。だから逆車並の43Tくらいまでショートにしろと雑誌のテスターは皆言うが…。

*4:『Dream Bikes』誌第9号