ZX-10Rの魅惑

貴重な二輪専門番組発見
二週間ほど前だったか、星の数ほどあるケーブルテレビのチャンネルをザッピングしていると、胸打つエギゾーストノートと見慣れたYZR-M1が飛び込んできた。もはや懐かしいフォルツナカラーを纏うカルロス・チェカ車の横に立って滔々とインプレを述べているのは、元GPライダー八代俊二。
スタジオにカメラが戻ればそこではノビーこと上田昇と、もう一人のキャスター(ライダーでもある“グレートMr.P”なる人物)が異様なハイテンションで司会を務めている。何かと思えば「ロックオンR」というバイク番組だった。
ロックオンR 公式ページ
http://gmp.jp/RRS/lockon/index.html
単発の特集ではなくレギュラーで、しかもMOBIのような四輪とごちゃまぜじゃなく純粋なバイクをやってくれる番組なんてとても珍しいから、昨日もいそいそと時間が来るのを待ってテレビをつけた。


及第点のZX-10R?
内容はかのZX-10Rのインプレ。バイク雑誌各紙ではすでに試乗記が掲載されているし、去年の東京モーターショーでも展示車に跨がったことはあるが、実車が動いているのは初めて目にする。それよりなにより、これだけバイクネタに飢えているオフシーズンにバイクの映像が見れるだけでも感激だ。MotoGPマシンに比べればなんてことない市販リッターマシンの排気音ですら、夏の日のシャワーのように体中に心地よく染み渡っていく。そう、バイク雑誌には大きな欠点がある。「音が出ない」のだ。そういう意味で、これは貴重な「音の聴けるバイク雑誌」かもしれない。
ハッチ(八代氏)のインプレとしては、まあフツーに褒めていた、というところ。エンジンは馬力が出ているし、パワーウェイトレシオ0.971Kg/psは伊達じゃなく、ストレートでメーターがすんなり250km超を刻むのが見える。走行映像では若干コーナリング中にアンダー気味になっているようにも見えるが、素人目には確信が持てるほどじゃない。
で、当然ながらエンジン以外にはほとんど言及しないハッチ(笑)。全体的に「思ったより〜しない」という論調が目立ち、思わず苦笑する。これまでのカワサキ車のイメージを良くも悪くも裏切っているのは確かなのだろう。最後まで車体のコンパクトさをしきりと褒め、サスペンションとラジアルマウントのブレーキキャリパーには少し苦言を呈していた。
最後に技術者が出てきて「今回は始めにエンジンありきではなく車体のパッケージングから設計した」というホンダ党からすれば特におどろかないことを自慢気に解説し、ダンロップが出てきて新型タイヤD218を強調するが、試乗は路面がスリッピーなのでD228を使ったとのことで、あまり参考にならない。

10Rに隠された驚くべきデザイン
とはいえ、僕は実はこのZX-10Rのデザインは相当すごいものだと感じている。不幸にもGPにおけるオケツ持ちの代名詞となってしまった02-03型ZX-RRに似せてしまったことの是非をのぞけば、革命的なデザインであり、何かの賞を受けても不思議じゃない。
微妙に中心に向かって湾曲し、張り出した“エラ”と絶妙に交合するタンク上面、そしてタンク側面と完全に面一となって違和感のないニーグリップを可能にし、かつ強い個性と秘めた剛性の高さを主張する異形のアルミツインチューブフレーム。その後ろでセクシーな曲線を描きながらも力強く張り出す超薄型テールカウル。既存の二輪のデザインの枠ではおろそかにされていた各部にきちんと注意が払われ、四輪出身のデザイナーが手がけたと聞くと深くうなずいてしまう。
そしてさらに、この「ロックオンR」を見ていてあることに気づき、僕ははずかしながらひっくり返るほど驚いてしまったのである。
フロントのウィンカーがカウルに埋め込まれてフラッシュサーフェス化されているのはこのクラスとしてはかなり珍しいことだが、その部分を真横から見ると、サイドカウルに空いた通気用のスリットとこのウィンカーとで、なんと「ZX」という文字を構成しているのだ!微妙に曲がったスリットが「Z」を模し、ウインカーとサイドカウル前端、さらにフロントフォークが漠然と「X」をなしている。尖ったウィンカーの後端は、そのまま「X」の鋭いロゴデザインが続くかのように錯覚させる。
…これはすでに良く知られたことなんだろうか?こんな(いかにもデザイナーが好きそうな)小洒落たデザインの理由づけをやる二輪が、これまであっただろうか?
やはりこれからのカワサキデザイン、只者ではない。