Cool Down UKAWA

Jet2003-12-01

11月30日、予告通り、静かに、そしてなんのてらいもなく、宇川徹の公式ファンサイト「Heat Up UKAWA!」(HUU)が終了した。管理人のサーバー契約がちょうど月末で切れるから、というのが理由らしいのだが、珍しいことに跡地も残さず*1、いきなりNot Foundになるという潔さだ。
今シーズン、宇川徹は公式サイトとしてのHUUをほとんど活用できなかったといえる。また逆に言えば、Heat Up UKAWA!はファンと宇川本人をより強く結びつける役割を果たすことはできなかった。開幕戦の悲劇、そしてその後の決して絶望的ではないがHRCのライダーという看板にふさわしいとは言えない成績の低迷と歩調を合わせるように、彼本人が掲示板に書き込むこともほとんどなくなっていった。いつでも気軽に更新できるようにと設置されたのだろう日記形式のCGIも、シーズンを通じて数える程しかアップしなかった。今期の、そして最後の年のHUUは、あわれなファンがせつない声で祈りを捧げ続ける無人の記帳台としてしか機能していなかったのである。
成績が伴っていなければ何を言っても言い訳になる。声援に応えて強気の発言をし、万が一期待を裏切ることもしたくないし、マシンやチームや自分のメンタリティについてわざわざ愚痴ることもしたくない。そんなかたくなな意志が、今期の彼を通して垣間見えていたように思える。
それに今期の宇川は「口は災いの元」的なツキの無さにまとわりつかれていた。開幕戦の後、「チェカが加藤車と接触した」とコメントしてすぐに撤回・謝罪する羽目になり、サイト上でよびかけた加藤の事故シーンのビデオ集めもホンダによってすぐに停止されられた。加藤大治郎の葬儀後数ヶ月ぶりに書き込んだ日記では、イベントのためにキャメルカラーに塗られた98年型だかのNSRを「ニューマシン発見」として公開し、その荒い画像のせいもあってファンは冗談だとわかりつつも一応の事実確認に追われた。意外にも問合せが多かったのか、彼はこのこともしばらく後に謝罪することになる。
そして最終戦直後にサイト上で発表された「引退宣言」。これはNHKのスタジオにもレース放送終了間際に飛び込むほどの急なニュースとなるが、「来期のシートがないだけで、機会があればまだ走る。本人の意思もレース続行」ということが伝わるうち、ファンの失望は安堵を含んだ軽い憤慨に変わっていくことになる。このことを受けてか、2日もしないうちに宇川のコメントは「第一線」引退という柔らかいトーンに差し替えらえることになった。
不器用だ。なんとも不器用だ。そうとしか言いようが無い。不言実行を旨とするかたくなな意志、常に胸の奥にしまって、表にひけらかすことを好まない闘志。「一番大切なものがダメなら、ほかのすべてもダメだ」と言わんばかりのやけっぱちともいえる潔さ。それが結果としてこうしたディスコミュニケーションを生んでいるのだろうか。
日本人ライダーの公式サイトの使い方にはいろいろな性格がある。レース終了4時間後にはすでに更新され、少なくとも二週に一度、長さもだいたいきまった文章をまめにアップする青木宣篤http://www.nobuaoki.com/。世評に心無いことを言われながらも現役復帰への強い意志を語り続け、結果を手中に収めようとしている阿部典史http://www.norickabe.com/。淡々と日常中心の日記を綴り、生真面目さを感じさせる中野真矢http://www.shinya56.com/。愚痴も含めて本人がすべて明るくさらけだす関口太郎http://www.s-taro.net/。公式リリースと同じ不満をBBSではっきりぶつける宇井陽一http://www.ui41.com/、そしてユニークな裏話をたくさん聞かせてくれる伊藤真一http://www.ito-shin1.net/……。
こうした他のライダーに比べ、「日本人最上位ライダー」としての宇川徹の肉声は、あまりにも少なすぎ、ホンダに発言を管理されているのではないかと勘ぐりたくなるほどだ。確かにHRCのライダーとして、青木のようにマシンの開発具合や不調ぶりをあからさまに書く訳にはいかないだろうし、阿部のように大口ともとられかねない意思表明ばかりすることもできないだろう。だがそこに僕は「レースが好結果に終わるまでだれ一人笑わない」とも言われるHRCチームの、強いがどこか非人間的な空気を感じてしまう。
僕の家には、HUUに応援メッセージを書き込んだお礼として、妻が抽選でもらった宇川徹のサイン入りプリントが飾られている。それを見ながら、もしHRCライダーと言うプレッシャーがなければ彼はもっと自分を語れたのだろうか、そして今期、彼がもっとファンに胸の内を明かせば、HUUやそこに集うファンはより彼を理解できたのだろうか、と考えるのである。

*1:実際には、管理人がHUUに注力する前から運営していた個人サイト(宇川徹ファンサイトではない)でBBS他の機能を引き継ぎ、HUUの常連達はそこへ流れるらしい。URLは以下。
『私のWGP回顧録
http://www.eonet.ne.jp/~akimori/wgp-kaikoroku/