久しぶりの洗車

Jet2003-11-15

レプリカの洗車は退屈だ。なにせすべてがフェアリングに覆われているから、メカ的な整備がぜんぜんできない……。とうそぶいては見るものの、信頼性の高い現代のバイクでエンジンが露出していたところで、特にやるべきようなことはない。
以前乗っていたロイヤルエンフィールド・ブリット350などは、洗車の度にプラグを外して洗浄あるいは新品に交換し、フェンダーからエンジンマウントに到るまでボルトを増し締めし、オイルをつぎ足し、あらゆる可動部をグリスアップし、ブレーキワイヤーを調節し、場合によってはポイントを紙やすりで研磨する必要があった。続くXL1200Sは、信頼性の向上した“エボリューション”エンジンのものだったのでほとんど気にする必要がなかったものの、電装系などをある程度チェックしてやる必要はあった。
それに比べれば、信頼性の高い現代の水冷4気筒など、場合によっては車検がくるまでブラグを開ける必要もないほどだ。せいぜいダミーの空冷フィンの間を掃除するとか、エキパイの焼けをチェックしたり、ラジエーターの上で生涯を終えたあわれな虫の死骸を取り除くくらいだろう。
しかしながら、整備の資格など持たない僕のような一般ライダーにとって「メカをチェックする」ことはただ通り一遍以上の意味がある。自分がバイクの細かい部分まで目を通すことで、自分がマシンを理解し、自分とマシンの関係が深まるような気がしてならないのだ。
長い道程を伴にし過酷に働かせた馬に飼葉と水をやり、潤んだ瞳に話しかけながら、毛並みに艶が戻るまで丁寧にブラシをかけ、馬の体調を把握する。それと同じようなものかもしれない。ただ外装を磨くだけに終わらず、メカニズムをケアすることでバイクのコンディションを理解している安心感が得られるし、自分の微妙な癖がマシンに与えた意外な痕跡を発見したり、傷や疲弊の徴候を早めに発見することもできる。
とはいえ洗車の度にCBRのカウルを外すわけにもいかないので*1、僕のメカケア欲はいきおいチェーンに集中することになる。リアをリフトアップし、ナイロンブラシをかけながらチェーンクリーナーを吹きつけて汚れを落としていく。“メカを整備している”という自己満足を投射できる数少ない部分なので、一コマ一コマ細かく掃除していく。シール付近にたまったカスがクリーナーの噴射で吹き飛ばされていく様子は、いつ見ても気持ちがいい。この時、下に雑巾をひいておかないと垂れたオイルの汚れがアスファルト上に数ヶ月残ることもあるので、共同住宅居住者は要注意だ。
その後汲んでおいたバケツのぬるま湯にカーシャンプーを溶かし、タンクやフロントカウルの上部から順番に洗っていく(洗車は下からがルールだというむきもあるが)。僕はこれまでホースで好きなだけ水をかける事ができる環境でバイクの洗車をしたことがないので、汲み置きの一杯とそれを流す一杯の計2杯できっちり水洗いを終わらせることが癖になっている。お湯の残量を見極めながら、スポンジと柄付きブラシで全体を洗う。
薄汚れてしまったブレーキキャリパー本体を掃除する。奇妙に聞こえるかもしれないが、この金色に輝くニッシンのキャリパーの外見は、市販車装備としては抜群のその効きと共に僕がホンダ車に憧れていた大きな要素なので、妙なこだわりがある*2。ブラシで洗うが思ったほどは綺麗にならず、後でここにも小さなナイロンブラシを使うといいことを知る。
ココナッツパワーで洗浄するという地球に優しそうなクリーナーでホイールを磨き、マンションの3階から再び運んできたバケツいっぱいの水で今度は泡を洗い流す。セームで水気をふき取ると、洗車時に発見した細かい傷やピッチ汚れを「汚れとりつやの助」というスゴイ名前のクリーナーで取っていく。
これは大学時代のある友人が教えてくれて以来十年近く使い続けているもので、クリーナーとワックスとちょっとしたコンパウンドの機能をすべて兼ね備えているのでとても重宝している(実際には研磨材成分は入っていないけれど)。これがあれば、いつまでも車体をぴかぴかに保っておくことなど朝飯前だ。とはいえ、粘性が高くすき間に入り込むとすぐ乾燥するので、フルカウルの車体にはやはり使いにくく、CBRに乗り換えてからは頑固なダスト除去用にのみ使うことになった。これでアンダーカウルのブレーキダストやピッチが落ちてスッキリしたところで、カウル全体にはふき取りが楽なスプレー状のワックスを塗って仕上げにする。
いよいよ佳境で、後輪にビニール袋を巻き付けて養生してからチェーンにホワイトチェーンルーブを吹いていく。これ、吹いた後チェーンが樹氷のように真っ白になるのだが、知らないうちはこれをふき取るべきなのか放置すべきなのかわからずずいぶん迷っていた。勇気を出してディーラーの人間に聞いたところそのままでいい(というかその白い状態が"いかにも")だそうなので、半信半疑ながらそのままにする。なんでもこの粘性のせいで走行してもすぐ飛び散らないのがメリットだそうなのだが、自慢気に輝くゴールドチェーンを見せびらかしたい人などは複雑な心境なのではないだろうか。
その後各部(といっても両ペダルと両レバー)をグリスアップし、最後にブレーキまわりをパーツクリーナーで脱脂する。エアポンプで前後のエアを補充するが、なぜか前輪だけ圧が低くなっていた。
と、久しぶりにフルメニューでの洗車をこなしてかなり気分が良くなる。あとは乾燥をかねて街を走り回ってくるだけだが、その前に車体の周りをぐるぐる回りながら最後のチェックをする。これは、「あ〜バイクっていいなあ(というか『俺のバイクってかっちょいいよなあ』)」と思いながら所有の歓びに浸るクラくも愉しい一瞬である。
そして視線がスイングアームまで来て、そのマッシブさに満足げに笑みを浮かべる剛性感フェチの僕は、最後にまだ端の残ったリアタイヤを見てマシンにそっと謝るのだった……。

*1:特にこのCBR600RRは、アンダーカウル→サイドカウル→エアダクトカバー→フロントカウルという順番でなければカウルを外すことができず、いきおい完全ストリップになってしまう

*2:その点、次期CBR1000RRのラジアルマウントがトキコの真っ黒なキャリパーだったのにはかなりがっかりしてしまった。おそらくニッシンが要求されるコスト内で必要な性能を満たせなかったのだろう。まあ、すごく効くらしいので別にトキコでもいいんだけど。