[MotoGP] Next Champion
誰かがネット上でこんな投票の場を作っていた。
来期のMotoGPチャンピオンは?
http://www.kissmeplz.com/mvotes/vote.cgi?id=asmsw
さっそく僕もGPファンの一人として投票……と思ったのだが、実はこの質問、真剣に考えると全く判断がつかないことに気づいた。上の投票を作った人は「ホンダで本領発揮か、コーリン・エドワーズ」「川崎移籍で一気に開花、中野真矢」などとそれぞれのライダーに期待を持たせるキャッチコピーをつけてはいるが、それらを見れば見るほどそれぞれが決め手に欠けるような気がしてくるのである(それにしても『こちらもドゥカティ』で片づけられてしまったベイリスの立場は……)。
セテ・ジベルナウはたしかに今期ランキング2位につけたライダーだ。しかし、それは(マイケル・スコットの言うように)加藤大治郎の一件が起爆剤になったこともさることながら、ロッシにランキング争いを「引っ張ってもらった」ように感じるのは僕だけだろうか。いったん抜かれてしまったときや後方集団に飲み込まれたときの追い上げがそれほど期待できないのを見ていると、ロッシのRCVのテールが目の前から消えた時、彼にどん欲にチャンピオンを獲りにいく実力があるのかどうか不安だ。
来年こそ本番の年と言われるドゥカティのデスモセディチは、間違いなくNo.2の実力を持つマシンだ。しかしコースレイアウトに激しく左右される今期の不安定さを見ていると、まだ判断の決め手に欠ける。チャンピオンを獲るということは、あれだけ完成度の高いRC211Vを大抵のレースで退けてみせるということなのだ。そこに至るには、まだ一山も二山も越えなければならないように見える*1。好成績を上げる際には、ロリス・カピロッシらライダーにぎりぎりまでの消耗を強いているように見えるのも気になる点だ。
ニッキー・ヘイデンには僕も一番期待しているが、彼を語るとき、誰もが「スペンサーの夢よもう一度」という呪縛に捕われているのは間違いない。確かに03シーズン後半は格段の進歩を遂げたヘイデンだが、僕たちが脳内で描き出す理想の「ホンダさんが発掘したAMA出身ルーキーの成功物語」を取り除くと、04シーズンが終わったとき彼が誰よりも多くポイントを稼ぎ、そして大抵の場合どんなライバルよりも多く表彰台の頂点に立っている!とはまだ胸を張って言いきれないように感じる。
カワサキやスズキ、アプリリアといった勢力が来期のチャンピオンシップをかすめ取る可能性が極めて低いのは論を待たないと思うが、ホンダ(しかもレプソル!)への移籍が噂されるアレックス・バロスや日本人期待の玉田誠、そして今期後半で自らの身の丈を見切ったかのようにおとなしくなってしまったマックス・ビアッジはどうだろう…。
こう考えてくると、GPファンは(少なくとも僕は)一つの未確定要素と、しらずしらず頭の中にでき上がってしまった呪縛のせいですっかり骨抜きにされていることに気がつくのである。未確定要素とは「明らかにそのクラスで最高というわけではないマシン」に乗ったロッシがどんなライディングを見せるのか全くわからないということだ。そして呪縛とは、最近では「ロッシを脅かすほどの実力」というのが他のライダーに対する最高の賛辞になっていたので、誰かが単独チャンピオンをとるなど想像できなくなってしまったということである。
最高峰排気量に来て以降、ロッシがクラス無敵のマシンを得ていたことは確かだし、250cc時代のアプリリアもそのコンストラクターキャリアの絶頂にあり、1998年のRS250Wはやはり無敵のマシンだった。しかし、今のヤマハYZR-M1は決して最高のGPマシンとは言えない。そうした“ハンディキャップ”をロッシがどう克服していくのか、誰もが想像しかねることだろう(とはいえ、『1年目の苦戦』のジンクスを始めから想像している人も多いだろうけれど)*2
また2番目の「呪縛」はもっと深刻だ。他のライダーがロッシを脅かすことによってレース運びが面白くなるが、結果としてそのライダーはロッシの引き立て役になってしまったというレースを散々見させられてきたこの2年間で、ロッシは一つの「基準器」になってしまい、他のライダーはその目盛りの中でしか語られなくなってしまったように感じる。だから、「他の星からきたように」忽然と出現し、ロッシが見る見る打ち負かされていくようなライダーを待望する気持ちがルーキーへの過大な評価を産み、玉田誠ニッキー・ヘイデンはまさにその渦中にある。また同じグリッドに並ぶライダーに「確変」を望みもするけれど、まさにそうなったセテすらロッシにかなわなかったではないか……。
そうなると、ロッシを除いたら誰もが凡庸なライダーに見えてきても不思議ではない。「マシンさえ同じならロッシには負けない」とケニー・ロバーツJr.やノリックはうそぶくけれど、ではロッシ抜きでレースをしたとき、彼らが圧倒的な実力でチャンピオンを獲ることができるのだろうか。
結局冷静に分析しようとしても迷うばかりだが、この未知数さがレースの面白さでもある。02年シーズンの終わり、誰がセテのランキング2位を予測しただろうか。誰が玉田が日本人唯一の表彰台獲得者になると考えただろうか。だから、こうした予想は多分に「こうなったらいいな」という希望を折り込んで投票しておくのがいいのかもしれない(賭けでもしていれば別だけれど)。
そしてホンダファンだけれどアンチロッシの僕は、迷わず投票したのである。
……「ヤマハでもやっぱりバレンティーノ・ロッシ」に(笑)。
だって、指が勝手に動いたんだもの。

*1:来シーズンのRCVが大幅な方向転換をすればまだ別だが、ホンダはもはや2000年型NSR500と同じ轍は踏まないだろう

*2:ロッシは125ccでは9位、250ccでは2位、500ccでも2位と、各クラスにステップアップした1年目はチャンピオンをとっていないというジンクスに近い成績を残している。そして2年目は圧倒的な実力でチャンピオンを獲ってしまうのだが…。ロッシとヤマハが来期をM1の開発方向性を定めることに使うという可能性もある。何せロッシはまだ若いのだ……。