宇川が好きだ!…っていいのか?

GPのシーズンも終わり、ストーブリーグに突入。移籍のニュースが一つ漏れてくるたびにお祭り気分になる日々が続いている。ヴァレンティーノ・ロッシがやっとヤマハへの移籍を正式発表し、中野真矢カワサキへ。そしてトーチュウはスクープか先走りか、残るヤマハの一枠にノリックが復帰すると発表。
来期期待できる日本人ライダーは玉田誠くらいかと期待していただけに、事実上最下位チームに移籍とは言え中野の残留、ノリックの復帰は良いニュースだ。しかし、何かが足りない…と考えるとやはりジワジワと効いているのは宇川徹の引退か。
世界チャンプを獲るためには、メーカーべったりの社畜的経歴よりも、歯に衣着せぬ物言いと傲慢とも言える自己顕示、そしてメット一つで見知らぬ外国メーカーを渡り歩く度胸が必要と内心思っていた*1。でも実際玉田やノリックが日本人ライダーの中核になるのかと考えると、玉田のある種動物的で幼稚にも感じる攻撃性と、ノリックの「有言実行が花形ライダーのあるべき姿」と自分にも他人にも言い聞かせているような態度は、あまり好きになれない気がしてきた。
それに比べて、宇川はあまりにも謙虚だ。サテライトに移されても文句一つ言わず、ライバルに貶されても反論せず*2、思い詰めた表情でHRCトップライダーとしての責任をしょい込み、結果が全てのレースの世界で不調を理由にほんとうに黙ってしまうその姿は、不器用で真面目なゆえにプレッシャーに潰され、引きこもってしまう優等生のように映る。
宇川が「心優しきライダー」であるというのは誰もが認めることだ。そして、彼の公式サイトhttp://www.ukawa.net*3に集まるファンもまた、知らずしらずそうした「優しさ」に溢れているらしい(中野の公式サイトhttp://www.shinya56.comに集まるファンは、最終戦で中野が宇川を巻き込んで転倒した後、宇川のファンサイトが中野を中傷する書き込みで溢れるに違いないと恐れていたらしい。中野のBBSには、中野を一切攻めない宇川ファンへの感謝の書き込みすら見られた)。
考えてみれば、そうした「優しく謙虚な」ライダーが、互いに鎬を削るようなレースの世界でトップクラスの成績を上げることこそ、希有で記憶されるべき勝利なのかもしれない。そうした外面の中に隠された熱い闘志が、あるとき猛然と外に飛び出し、結果を生む。「羊の皮を被った狼」という存在は、不言実行を好む日本人が生み出した貴重なメンタリティのはずである。
近づくものは何でも斬って捨てるようなアグレッシブなライディングも、優勝か転倒かというような限界を極めた走りもいいが、宇川のような静かなライダーにこそ本当は勝って欲しかったのだと今更ながらに思う。
思えば故加藤大治郎は言っていた。「熱くなっている人をみるとこっちが冷めてきちゃう。かっこ悪いじゃないですか、そういうの。自分で熱くなっているのに気づくと、ダメダメって思うんです」と。かのロッシも、決してカッカした走りを見せるわけではない。今後の4スト時代の混戦を制するには、冷静さも大きなカギなのかもしれない。火の玉ボーイもいいが、クールで淡々とした日本人ライダーが一人GPにまぎれこんで、静かに勝利をさらっていってくれないものだろうか。

*1:原田哲也のようにね

*2:RCVを評して宇川でも勝てるマシンだ、と言ったのはマックス・ビアッジだったか

*3:03年11月末をもって閉鎖