戦え!R1

Jet2005-02-16

青梅市は東京都の西端、感覚的には「ここを越えたら奥多摩」とも言える場所にある地方市だ。しかし、単なるJRローカル線の一駅だと思っていると驚くことになる。街のあちこちが復刻された古い映画看板で飾られ、昭和レトログッズの博物館や古い蔵を利用した赤塚不二雄の記念館など、“昭和”を前面に出した街づくりにびっくりさせられる。
駅周りには石畳が敷かれた旧道に古めかしい商家が並んで、ちょっと散歩したくなるような風情を醸し出している。そうした雰囲気に引っぱられてか小洒落た避暑地風の雑貨屋などもできるようになり、なかなかあなどれない“田舎町”なのだ。
この駅の裏手、一帯を見晴らすことができる小高い山である「永山公園」の一角に、これまた青梅市のあなどれない側面が垣間見える青梅鉄道公園がある。にぎやかしに蒸気機関車をディスプレイしている施設はそれほど珍しくもないが、ここは旧国鉄が開設しただけあって日本初の蒸気機関車から懐かしい0系新幹線まで、11台もの鉄馬たちがそれぞれ威風をさらしている。
何か珍しいものを見せてやろうと、僕は妻とマイサンを連れて寒風吹きすさぶ中をこの公園にやってきた。「トーマスだ!」だの「今、万感の思いを込めて汽車が行く!」*1だのと叫ぶマイサンをひとしきり遊ばせた後、僕たちは公園の中にある記念館に足を踏み入れた。
中は鉄道の歴史に関するパネル展示や100円で動く乗り物が並べられたいかにもな内容だが、1F中央部分にディスプレイされた巨大な鉄道模型は圧巻だ。ボタンを押して(有料だ!)在来線と新幹線がぐるりと周回するだけにもかかわらず、支線や停車中の車両を組み合わせた複雑なレイアウトで、見るものを飽きさせない。
模型の数箇所にはミニカメラが仕込まれている。迫力充分のアングルでモニタに映し出された新幹線の通過シーンはまるで実物のようで、相当構成が練られているのがわかる。僕はいわゆる鉄道マニアでは全くないのだが、鉄道模型の魅力というのが少し理解できた気がした。
そしてお約束のようにプラレールや列車のおもちゃを売っているこれまたしょっぱい売店があるのだが、僕はここでしばらく探し求めていた意外なものを見つけて、即ゲットすることになった。それは鉄道とは何の関係もない「チェンジバイクロボ・風神」というトイなのだ。


早川玩具というところが作っているそのおもちゃは、以前バイク系の掲示板で見かけて以来ずっと心に引っかかっていた。なにせ、「バイクがロボットに変形!」というありがちな設定ながら、「ロボットよりバイク形態のプロポーション重視」という涙ものの作りなのだ。
しかも壱号機「風靡」は2001年型GSX-R1000(K1)、さらに弐号機「風雲」は98年型YZF-R1(4XV)というなんとも渋いモデルアップだ。
隠れスズキファンとしては壱号機に手を伸ばしかけたが、しげしげと眺めているうちにあることに気がついた。これ、壱号機がなぜか弐号機のR1をもとに作られている!GSX-R(風靡)はフロントカウルと塗装を変えただけで、ボディシェイプそのものはR1(風雲)──デルタボックスIIフレームのステアリングピポット脇にある独特の“へこみ”や脇の張りだしたタンク形状、また丸目2灯のテールランプなどがそのままGSX-Rにも反映されている──なのだ。
それならなぜ壱号機と弐号機を逆にしないのか(塗装も赤白ツートンの4XVの方がヒーローっぽい)と思いながら、僕はバイク時のプロポーションを優先してR1を買い、いそいそとその場を後にした。
家で開封してよく見ると、バイク時のプロポーションはため息が出るほどよくできている。ブレーキまわりはもちろん、リアサス、ステップ、チェーン、リアブレーキのリザーバータンクまで再現され、さらにはヘッドライト裏の円形のカバーも律義にモールドされている。
ロボットへの変形そのものは、あれこれ語るより見てもらった方が早い、噴飯もののデザインだ(笑)。調べればこのおもちゃは「チープトイ」と呼ばれる確立されたカテゴリで、温泉街の売店やファミレスのレジ横で売っている類のものらしい。この「チェンジバイクロボ・風神」自体も好き者の間では相当話題を呼んだものらしく、調べると様々なサイトでレポートされていた。
例えば以下のサイトに詳しく変型が出ているのでご覧いただきたい。

基本はフロントカウルを胸としてたたみ込み、エンジン部が腕になり──まではいいが、シートカウルからリアタイヤまでを単に逆V字型に分割して「足」と称するのはかなり笑ってしまう。その“纏足”状態のプロポーションたるやほとんど使徒である。
しかし左右のクランクケース形状の違いを再現するために腕のたたみ込み位置が微妙に違ったり、アンダーカウル部のエグゾーストパイプまでロボット時に生かしたりと、芸は相当に細かい。開発担当者がバイク好きなのか、それとも全般的に細部にこだわる人なのかわからないが、知らない人が見たら単なるバイクのミニチュアとしか思わないというおかしみをひっそりと噛みしめながら、机の上に飾っておきたい逸品である。


子供の公園に行きながら、子供のものは買わず自分のバイクのおもちゃを買って出てくる親というのも問題のような気がするが、マイサンはさっそく僕からR1を査収してご満悦なのでよしとする。普段から何かにつけ2輪のトイは与えているので、よりリアルなものなので面白いようだ。
遊んでいるのを取り上げて、ひょいひょいと僕がロボットに変形させてやる。もともとまだロボット系のアニメやらヒーローものやら見る歳ではないので、理解できないといった表情で目を丸くして見ている。まだ複雑な変型など扱えはしないのですぐバイクに戻して返したのだが、しばらくしてから通りかかると彼はまだR1を眺めながらひとりつぶやいていた。
「なんで?なんでロボット?なんでなの?」
──マイサンよ、大きくなればすぐわかるだろう。変型は男のロマン、理由など無いのだ。そこにモノがある限り、それは変形する──昔はダンヒルのライターすらロボットに変形したのだから。

渡世に追われてまたまた更新の間が開いてしまいました。ゆる〜く復活。
この時期は比較的暇なはずなのに、ママなりませんなぁ。

*1:ウソです