極私的トイレ事情

Jet2004-09-30

境遇を近くする人以外には何の面白みもない育児ばなし、しかもシモの話で恐縮だが、しばしご容赦いただきたい。
子供が二歳くらいになると、多くの人がトイレを教え込もうと四苦八苦するに違いない。とはいえ、「もし小便がしたくなったらトイレに行くのだ、さもないと…」などという条件節のわからない幼児にそれを習慣づけるのは並大抵ではない。
おむつより吸収性が悪く、不快さゆえにトイレを覚えるという「トレーニングパンツ」とやらに変えてみるが、最初こそ「いつもと違う?」というような顔をしているものの、しばらくすると慣れてしまい平気な顔をしてそのまま遊んでおられる(そしてズボンはビッショビショ)。
朝起き抜けにすぐトイレへ連行し「小便をすべし」と勧めてみるのだが、そんなことより人生の優先事項はいくらでもあるらしく、「イヤ」「ダメ」などとのたまって便座に座ろうとはしない。
そうしたトレーニングの一助になればと、NHKの某有名教育番組には「パンツぱんくろう」なる異形の生物が擬人化した便器とコミュニケーションするという数分間のコーナーもあるが、我が息子は特に感化された風もない。ためしに子供雑誌についていたそのシールをトイレの壁に貼って想起を試みるが(『ほら、ぱんくろうは何してる?』)、どこ吹く風である。
彼のトイレデビューはいつになるのか、僕も妻もすっかりわかりかねていた。


そんなある夜、子供が寝ついた後で妻がせっせと何か切り貼りしている。見れば、二冊あるので一冊はスクラップ用と考えていた先日のキャメル日本GPのパンフレットから、MotoGPライダーのライディングシーンをせっせと切り抜いていた。少しでも彼をトイレ内に惹きつけるために、それを壁に貼るのだという。
二歳四か月になる息子は、親の影響か確かにバイクは好きなようだ。すでに数人のGPライダーやマシンを認識し、僕の『RIDERS CLUB』誌のバックナンバーを出してきてページを繰り、僕のと同じCBRや友人の乗るVFRを見つけては歓声を上げる。レースのビデオを見ていると興奮して走り回り、あげくにRC211Vのラジコンを出してきて馬乗りになる(やめてほしい)。
とはいえまさかそんな程度でトイレがねぇ、と思いながらも、妻を手伝ってGPライダーの写真を左右の壁に貼りめぐらす。子供の目線の高さに十数人分のライダーが帯状に連なっている有様は、いくらバイクが好きでもちょっとヒいてしまうくらい異様である。
翌朝、寝過ごした僕が必死で出かける準備をしていると、息子がまたトイレに連行されるのが見えた。「わー!むんむー(←バイクのこと)、いっぱーい!」とか奇声が聞こえる。第一段階成功か。そしてしばらく後、今度は妻の歓喜の声が廊下に響き渡った。
──ついにトイレで小便しやがったのである、彼。
まさかロッシ見て小便が出るとは、まったく子供は何がきっかけになるかわかったもんじゃない。さらば、ぱんくろう。

後日談。
息子が機能を殺してある電話の親機をおもちゃに、どこかと電話中。「もしもし、セテ?…あっちが〜うロッシ!…えっ?ホント?…うん…うん……(妻に受話器を差し出し)ママーっ!ビ!(←ビアッジのこと)」
──うちもスゴイひとたちから電話がかかってくるようになったものだ(笑)。