マスター、マイスター

■ご注意■
この記事には、8/22に行われたMotoGP第10戦チェコGPの結果が含まれています。もし衛星放送や地上波などでの録画放送まで結果をご覧になりたくない場合は、お読みにならないことをお勧めします。
チェコGPの放送は
・24日(火)G+ 25:30〜29:30
・28日(土)日本テレビ系 26:50〜27:50
・30日(月)NHK BS1 19:00〜20:50
に行われます。

夏休みの終わり
暑さもひいた日曜日の午後8時。ビールも買った。友人もやってきた。テーブルの上には妻が腕をふるった夕食も並んでいる。僕はiBook G4をテレビの上にちょこんとのせ、変換ケーブルを通してSビデオ端子へミラーリングする。MotoGP公式サイトへログインしてRealPlayerのハイバンド・モードを選択し、ライブ中継へつなぐ。開始されたストリーミングをフルスクリーンモードにすると、250ccの先頭集団がテレビに大写しになった。ついに、長かった夏休みが終わったのだ。
MotoGP有料ライブカバーの中継をフルスクリーンにすると、鮮明とは行かないがビデオの3倍弱の画質では観戦することができる。ゼッケンも順位表もタイム表示も、十分読み取れるレベルだ。待ち焦がれたエギゾースト・ノートだけはiBookのスピーカーから響くのみだが、そこは仕方がない。
第10戦チェコGPの予選は、2日とも雨にたたられていた。初日は、夏休み中のMotoGPサイトのニュースビデオで'98年第8戦イギリスGPの負傷についてリプレイされ、かつての姿のあまりの精悍さに愕然とさせられたカルロス・チェカ(『好きになっちゃいそうー!(笑)』とは妻)の暫定ポール。
しかし2日目は、いつの間にか“レインマスター”ということになっているセテ・ジベルナウアレックス・バロスヴァレンティーノ・ロッシらが順当にファースト・グリッドを埋める。
予選初日のライブカバーでは終盤映りっぱなしだったカーティス・ロバーツは6位という驚天動地の初日順位を維持できず、2日目では転倒、16位、そして骨折・不出走と“夏休み中プロトンを見ずに済むのが嬉しい”*1とまで言わせた不運さを引きずることとなる。
その他新型エンジンを投入したというカワサキ勢の不振や、何よりも過去10戦7勝のブルノ・マイスターマックス・ビアッジに3列目という情けないグリッドを与えたまま、運命の後半第1戦はスタートした。


妻の悪寒
250cc波乱の結果の一因ともなったどっちつかずの雨もやみ、フルドライでのスタート(ストリーミングの全画面表示では時折濡れたように画面の一部が粗くなっている時があり、それが雨滴と紛らわしいのが玉に瑕である)。ホールショットにしてすでにグリッド順は大きく崩れ、ヘイデンと並び今レースから新型RCVを駆るビアッジがいきなり3位に食い込んでくる。昨年ベストレースを展開したトロイ・ベイリスは誰かと接触があったのか大きく順位を落とし、変わってホールショットを奪うも後退したロリス・カピロッシがホンダ勢の後にぴたりとつける。
ジベルナウは危なげない走りでレースをリードし始め、屈指の高速サーキット・ブルノをぐいぐいと周回していく。しかし2位以下はすぐに突き放されることなく、続くビアッジから7位のエドワーズまでが流れるようにあとに続き、多くのマシンを同じアングルで目にすることのできる効率的なレース展開だ(笑)。
とはいえビアッジの尻はロッシの鼻息がかからんばかりのところにある。こういうとき、ビアッジはロッシを突き放せたためしがない。はたしてロッシは7周目にビアッジをパスして2位に浮上、その後ビアッジは意地の突っ込みでロッシの前に出るものの続くコーナーで大きくはらみ、以後気力を失ったかのように派手なブレーキングは避け始めた。
レースが大きく動いたのは12周目だ。それまで4位につけていたバロスが、満を持したように後半セクションの入り口で軽々とビアッジをパス。その後も右へ左へとマシンを振ってラインをクロスさせながらロッシの隙を窺っていたバロスは、翌周ついにロッシを抜くと2位に躍り出たのである。

ふと横を見ると、バロスファンのはずの妻が浮かない顔をしている。「早すぎる」というのだ。こんな早くにトップグループに食い込んだ場合、ロクなことが起こらない──と。
続く13周目、画面が急にリプレイに切り替わると、ジョン・ホプキンスがボバンと宮崎駿チックな煙を吐いてリタイアするのが映る。両手を振り回して悔しがるホプキンス(最後のハイライトを見たら、降りてから“この役立たず”とばかりにGSV-Rのタンクをこぶしでぶっ叩いていた)の映像からカメラが先頭集団に戻った瞬間、バロスがロッシに抜き返される映像が飛び込んできた。
15周目、妻の不安は結局現実となる。ジベルナウを追うロッシがペースを上げる中、左、右と切り返す第8コーナーで、バロスは画面を水平に横切ってどこかへ消えた。第6戦オランダGPを思わせる前触れのないスライド、すわ「またシフトミスか?」という思いが頭をよぎるが、後のインタビューによればフロントからのスリップダウンだという。起き上がってわたわたとマシンに駆け寄るバロスだが、彼のブルノはここで終わることになった。
その後、“ケツが涼しくなった”とでもいわんばかりのロッシは猛然とジベルナウ追撃を開始する。そして残り6周、トリッキーな後半セクションを利用したブレーキングで3度ほどジベルナウの前に出るが、いずれも続くコーナーでラインを収拾できず、卓越したジベルナウにインをとられて抜き返されてしまう。
バロス退場後のペースについていくことができなかったビアッジは、“攻めの走りを心がけた”というヘイデンに追い立てられてブロックに忙しく、思うようにペースが上がらない。そのアグレッシブさが裏目に出たヘイデンが19周目にリタイアすると、ビアッジとロッシはまるで気が抜けたように共に等間隔となってジベルナウの後に続き、レースは“3強”構図のまま終了した。

王者の予兆
チャンピオンシップはロッシ首位のままだが、ポールtoウィンの見事な走りを見せたジベルナウの存在感に心打たれる。目標物が無く、後からは容赦なく攻め立てられるトップを走行することは、相当なプレッシャーにさらされるはずだ。サマーブレイク前の不調から脱した嬉しさもひとしおなのか、ゴール後はまるで125ccの若いライダーのように腕を振り回してガッツポーズを繰り返し、またRC211Vのタンクをねぎらうようにさすっている。
僕は格別ジベルナウのファンというわけではないし、むしろ“ロッシを止め、チャンピオンシップを面白くしてくれる存在”として恃んでいるというほうが正しい。しかし、まるで一人で走っているかのように終始ペースを守りきったジベルナウの後ろ姿に、単なる“確変”以上の何か──世界チャンピオンの器──を感じずにはいられない。判官贔屓的に「今期はビアッジに王者を取らせてあげたい」という思いが強いけれど、「…セテでもいいかも」とちょっと思ってしまった瞬間だった。
ジベルナウは勝利後のコメントで、HRCによってマシンに劇的な改善がなされたことをほのめかしているが、マシンの排気システムを外観から見るに旧型のままだ。バロスに続きヘイデンとビアッジがニューマシンを手に入れた中でのこの勝利だが、次戦以降新型に乗り換えることで好調さが崩れてしまうことのないように祈りたいものである。
トップ争いの興奮の中から振り返れば、脅威の“12人抜き”を見せた玉田誠に偉そうにもスカウト的な目を向けてしまう。これまでの結果からも、彼のGPライダーとしての資質疑いを挟むものはいないだろう。すでに多くのチームから来期のオファーが来ているのではないかと思うが、“ブリジストンの開発ライダー”的存在故に来期を自由に想像して楽しめないのはむずがゆいものがある。*2
まずまずの後半戦スタート。この秋はいよいよ現地観戦できるもてぎ、そして楽しみな新サーキット、カタールなどが待ちかまえている。チャンピオンシップ争いができるだけもつれてくれよ、というのが一番の思いである。

*1:“スペインたん”情報。某巨大掲示板のバイク板・MotoGPスレには、スペイン在住という「スペイソ ◆v27E0lzUfQ」氏が時折出現し、『MOTOCICLISMO』など現地誌の翻訳を通じて濃厚なGP情報を伝えてくれる。

*2:また目を移せば、阿部典史がシングルでフィニッシュしている。今一つ平均的な結果を残せないロッシ以外のM1勢の中で、後半ある程度の指針となる存在になれるだろうか。せめて相次ぐ転倒という悪いツキを払拭して、レインマスターならぬ“エアマスター”を脱してほしい。