おお ろっし よ、にばんどけい とは なにごとだ!

トップタイム争い、そして悲喜こもごも
二度のセパン・テスト、そしてフィリップアイランド・テストが終わり、長いオフシーズンも折り返し地点を迎えた。最初はひとつまみの塩という位にしか感じられなかった各チームやライダーの情報も、だんだんまとまって入ってくるようになって全体の“味つけ”が見えてくるようで面白くなってきた。
1月下旬のセパン・テストでは、ヴァレンティーノ・ロッシヤマハ初ライド騒ぎもさることながら、目を疑うほど見た目が豹変した04型ZX-RRと中野真矢の好タイムにいらぬ期待をかきたてられたり、なによりも「やっとこの人の時代がくるのか?」と思わせるようなマックス・ビアッジの好調ぶりが目立った*1。ビアッジは03シーズン後半にロッシが乗った仕様のRCVを駆り、「これですべてわかった」と意味ありげなコメントを残していたというが、それは「ロッシ車は特別にパワーを上げたエンジンだった」という巷の噂をもっともらしく後押ししてくれる、敵役らしい発言だ。
それと忘れてはならないのは、このテストは我らが宇川徹のテストライダー“デビュー”だったことだ(微涙)。彼の乗った04型RC211Vは、トーチュウ遠藤氏の記事によればセパンのホームストレートでの最高速が318Km/h前後(03年型は310〜312Km/h)。限りなく280馬力に近いパワーをひねり出しているらしく、コントローラブルさはそのままに、目に見えて速くなっているというから恐ろしい限りだ。
涙といえば、スズキは涙どころではなく号泣である。スーパークロス*2の練習中に転倒して骨折しテストに参加できずにいるジョン・ホプキンス(彼は怒った僕の妻に“足首パキ夫”などという小学生のようなあだ名を付けられ、わが家では“パキ夫”で通るようになってしまった)に続き、ケニー・ロバーツJr.も転倒により鎖骨を傷めテストを中止した。原因はテスト中のBSタイヤと言われているだけに、ロバーツの無念に胸が痛む…というか、去年からの不運・低迷続きに怒りのあまりビルのように巨大化してしまうんじゃないかと思うくらいだ。
続く2月上旬のセパン合同テストでは、コーリン・エドワーズが目を見張る伸びを見せたと思いきや、3日目にニッキー・ヘイデンがトップタイムを叩き出し、いよいよ期待させてくれる。最近、来年あたりには自分のCBR600RRのカウルをレプソルカラーにしようか…という誘惑に取りつかれ始めた僕としては、その際のゼッケンに「69」を選ぶ後押しになってくれれば…とワクワクしてしまう(#46には…しない。#11は…えーと)
またこのテストでは、昼休みを利用して新型CBR1000RRのコマーシャル撮影が行われ、開発ライダーの鎌田学が駆る1000RRと宇川徹のRC211Vが並走する様子が撮影されたとかで、宇川徹のさっそくの働かされっぷりに、さらに涙する。


迫り来る影
そしてフィリップアイランド。初日にトップタイムを叩き出したエドワーズに、“テキサス・トルネード”のイメージそのままにカウボーイ・ハットを被せられて撮影された2002年型VTR1000SP-2のクリップを思い出しながら「これは確変かなあ…?」と胸を躍らせていた僕は、その夜海外サイトから飛び込んできた2日目のタイムを見てくずおれてしまった。
2日目のトップは03モデルの継ぎはぎ部分を全部カウルにおきかえた“空力命”の新型デスモセディチ、GP4を駆るロリス・カピロッシ──しかし、それはどうでもいいのだ。問題は、ヴァレンティーノ・ロッシのYZR-M1がその0.05秒後につけている、ということなのだ!
現時点では間違いなく完成度としてRCVに劣るとされているM1が、なぜこんなところに居るのだ!しかもロッシのタイムは、前年に自身が出したPPタイムと0.7秒しか違わない…。これは何なのだ*3。フィリップアイランドはロッシの得意なサーキットとは言え、これまでの“エース”カルロス・チェカは、そしてノリックは、そして去年までのジャックは、中野は、一体何をしていたのだ!
胸を去来するのは驚きよりも「恐怖」である。見ごたえのあるポイント争いになるというGPファンの期待を裏切って、再びレーストラックをロッシが支配することへの恐れ…。“ロッシを除いたら誰が一番速いか”という視点でライダーを比べなければならない哀しみ…。ロッシがトップに立った途端、テレビ画面への集中力を無くす虚無感…。
ロッシはたしかにスゴイけど、もうあんな時代はゴメンだ!──そう叫びたくなるような深いトラウマが刻まれているGPファンは、僕だけではないだろうとと思う。少し逡巡していた僕は、これを見てはっきり決意した。いかに彼の偉大さに胸動かされようとも、04年は“アンチ・ロッシ”の立場からレースを観ることを。

例のあの人
それよりも、意気込みの割にドンケツのノリックにはフラストレーションを感じざるを得ない。公式サイトでも「俺はテストや予選では遅いがレースになれば…」と言い訳しているが、今のこの恐るべき最高排気量クラスは、予選タイムが、そしてグリッドポジションが“命”なのだ(除くロッシ)。たとえフロントローからスタートしても、1コーナーの後で中団に飲み込まれたらもう表彰台の頂点はあきらめるしかないのだ(除くロッシ)
「甘くないぞ!ノリック!」と言いたいが、そんなことは本人が一番わかっているのだろう。ここは生暖かく応援するしかない。開幕まであと2ヶ月。時間はあるような、ないような…。

*1:余談だが、ホンダ04体制発表会に際して来日していたビアッジはプロモーションのためホンダドリーム磯子MotoGP公式サイトでは“ホンダのメガストア”と書いてあったから何のことかと思った)に続いてホンダドリーム世田谷をサービス訪問し、ロッシの写真にいたずら書きをして去っていった。これも“ビアッジと宿敵ロッシ”というわかりやすい図式を狙ったファンサービスなのだろうか?

*2:スタジアムなどの人造コースで行なわれるオフロードレース

*3:3日目には再び5位まで落ちたロッシ。テストでは4種類のエンジンを試していたとかで、サーキットとの相性がよかったのだろう。とはいえ、今後が怖いのに変わりはないが…