加賀山の気持ち?

僕はウィンタースポーツを全くやらないわけではないが、さほど上手と言うわけではない。とくにここ十年ほどは全くスキーから遠ざかっていたので、フォームも何もめちゃくちゃだ。しかもそれほどの間に、なんとスキー場はカービングやらスノーボードやらスキーブレードやら、なんでもありの世界になってしまっていた。
スキーと言えばアルペンであるべきとなんとなく教えられてきた僕にとって、これは目からウロコが落ちる思いだった。何をしてもいいんだ!と急に楽な気持ちになった僕は、数年前友人のブレードを借りて滑ってみたところ、いたく気に入ってしまった。両手がフリーなだけでこんなに自由な気持ちになれるとは!
さっそく自分も始めようと思ったが、どうもひっかかる。ただ滑っているだけではこれは先がなさそうだ。そこで調べてみると、やはりスノーブレード(ファンスキー)は、ボードなどと同じようなハーフパイプなどのエクストリームや、片手が地面に着かんばかりのタイトなターンなどアクロバティックな遊び方をしてなんぼのものだとわかった。その分新雪には弱いなど、クロスカントリー的要素には向かない。
とするとちょっと趣向が違うので、アレをやるか、と去年初挑戦したのがスノーボードだ。これだけ多くの人間が難しいむずかしいと苦心しているのを見ると、実は万人には向いていない超高難度のスポーツなのに、みんな手を出してしまって、一生上手くなれないゆえにハマらざるを得ないゴルフのようなものなのではないか、と思っていた。とはいえ挑戦してみないでは話にならないと、妹が一人前のボーダーなのを幸い、1日だけ教授してもらう。
しかし、結果は1日中転倒し続け、終わってから筋肉痛になるのは転んだ時に体を支えた前腕と大胸筋だけ、と言う屈辱で終わった。そのため、その後のモチベーションが今一つあがらない。帰京してからすぐスキーショップにも行ったが、何が面白いか体が知らないために板を買う意欲も今一つ。
これでは走り出せない自転車のようなものだ。まずは「自分は滑れる」という自信を得ないでは話にならない。そこで、今年も再び挑戦した。自分なりに問題点を整理し、再び妹のコーチングを得て、カンカン照りのゲレンデへ飛び出した。
ご想像通り、カンカン照りということは雪もカチカチ。向かった草津国際スキー場ではここ数日雪が降っておらず、アスファルトの路面も乾ききっている状態だ。初心者は無理だとやんわり諭す家族を尻目に、僕はさっそうと練習を開始した。
ボードもバイクと同じ、バランス・スポーツだ。上半身に力を入れない、荷重移動で曲がる、スピードが出た時に恐怖心で堅くならない、外から見ると自分が思っているほどフォームができていない、というところまで、驚くほど要素が似通っている。バイク乗りでスキーに堪能な人が多いのもうなずけるというものだ。
そこで不得手な左ターンから右ターンへの切り返しを集中的に練習していると、ある瞬間ぱっと荷重のかけかたがつかめる。わずかな前進を感じて気分が良くなり、さあ今の感触でもう一度だ!
……という僕の前に、外国人のスキーヤーが数人連れ立って出現した。こちらのルートをまっすぐ、しかしのろのろと横切っていく。当然よけきれない僕はエッジを立てて止まろうとし、当然のように転倒。
結果、アイスバーンで尾てい骨強打。
うずくまったまま、しばらく動けない。このまま腰の痛みが慢性化したり、骨がずれてヘルニアになりバイクのライディングに支障を来す恐怖が頭を去来する。ロッジへ降りた後もまともに歩くことが出来ず、腰骨全体ががんがんと痛む。僕は、涙ながらに2時間で練習をリタイアする決意をした。滑るチャンスはこの日しかなかったので、ひどく悔しい。
03年の鈴鹿8耐でのヘイデン/清成組や、先日のGP最終戦での宇川徹の無念が胸を去来する。序盤に転倒リタイアとはこんなに悔しいものなのか(苦笑)……。それになにより、腰を打つとこんなに痛いのか……。
骨盤強打と言ってすぐに思い浮かぶのは、03シーズンのBSBでそこそこの成績を刻みながら第10戦カドウェルパークで転倒し、シーズンの残りを棒に振った加賀山就臣である。なんでも骨盤骨折だけでなく内臓も損傷し、扱いの悪かったイギリスの病院では感染症を併発しかけていたというから並ではない。日本に転院してからは順調に回復しているらしいが、その加賀山の痛みと悔しさと比べれば……などと自分を慰めながら、せっせと旅館の温泉に入って早く痛みが取れることを願った。
もちろん僕のは骨盤じゃなくて尾てい骨だしスキーをしていれば良くある話だが、今でも床に座った状態から腹筋だけでは起き上がれない。バイクのオフシーズンで本当に良かった…と思いながら、転倒して激しく怪我をしてもへこたれないGPライダーってすごいなあ、と感じることしきり。そして、次に来る時はバイクと同じように完全にパッド装備で来てやる!と思うのであった。
とりあえず、がんばれ加賀山!