ブレーキングの“スピード”

Jet2003-11-27

コーナーが迫ってくる。上体がブレないように注意しながら腰を大幅にイン側にずらし、つい不安になる体のバランスをアウト側の太ももで意識してつなぎ止める。アウト側の前腕がそっとタンクの曲線に触れているのを、上体が正しく前傾している一つのサインとして確認する。
セテ・ジベルナウのスムーズなライディングスタイルが好きだけれど、まったく平均的な自分の身長と、それより少し低めを維持している体重を考え、小柄なロリス・カピロッシのように積極的に荷重移動を使うライディングをイメージして、迫り来るクリッピングに備える。
コーナーの全体像を見るように努め、視界の隅でクリッピング・ポイントをとらえる。一瞥して回転数を確認するとスロットルを戻し、エンブレが効き始めないうちに素早くブレーキレバーにかけた二本の指をひきこみ、ブレーキングを開始する。
……と、ここまではいい。問題は、この後どれくらいの強さとスピードでレバーを引き込むか、なのだ。
答えは『RIDERS CLUB』1月号にあった。ライテクをきちんと勉強し始めて二年来、ずっと悩んできた「レバーを引き込むスピードと強さ」について、ついにというか、やっとというか、取り上げてくれたのである。
教科書通りレバーを遠くセッティングしているのはいいが、コーナーへの進入時に少しでもポジションが崩れていたりするとそっちに気を取られ、指がうまくレバーをとらえられず、力が入りきらない。僕には近い方が合っているのか、とセットし直すと、最初こそ絞るも緩めるも自在なように感じるが、アベレージを上げ始めると「奥がない」気がして怖くなり、思いきってレバーを引き込めなくなってしまう。
レプリカに乗り慣れた人は、時には指一本で軽々とブレーキングしてコーナーに突っ込んでいく。自分のマシンだけこんなに強い力が必要なわけがない。かといって軽くかけてもゆるゆるとしか減速せず、アウトがあっという間に迫ってくる。
これはレバーのせいか、はたまたキャリパーを換えればいいのか。CBRに乗り換える前はご多分に漏れずマシンのせいにして、高価なリプレイスパーツを検討したり、ショップに相談してはあいまいな回答をもらって余計困惑したりしていた。しかし最新レプリカたるCBR600RRに乗る今、それでもブレーキングがうまくいかないのは自分のかけ方に問題があるのは明らかだ。国内セミフルとはいえ元はST600のベースマシン、これでブレーキがうまく効かないなんて言っていたら末代までの笑いものだ。
そのRC誌1月号によれば、レバーを引き込む際のイメージは未開封の500mlペットボトルを指先で潰す程度。けっこう強い。そして、ボトルが凹んで力が必要になってきた段階からが、実際にブレーキが効き始める“二段目”とか。え?これって、僕が「効き始め」だと思っていた段階よりだいぶ奥ではないか!
しかも一段目を引く速度は0.5秒以下。これも思っていたより全然早い。「スーっ」と引き込むつもりでいたが、ほぼ「スパッ」というくらいである。あれこれ悩んでいたレバー位置も、今回の特集ではCBR954RRを使い、はっきりとアジャスターの「1」だと写真が示している(僕は実際には『2』の位置でやってはいるが)。これまではグローブをしたままの写真だったのだが、レバーを握る動作を素手で示してくれているのもありがたい。「こんな指先でレバーが引けるものかぁぁ!」とか思っていたが、本当にそんな浅いところからかなり奥まで引くのである。結構な力が必要だ。
このことは、98年のネモケン本『バイク“乗れてる”大図解』ISBN:4870992159、そこからコーナリングの瞬間だけを取り出した2000年の『バイク“曲がれる”大図解』 ISBN:4870993279、そしてそのDVD版にも、古くなった表現を修正しよりビッグマシン寄りにテクニックを解説した今年秋の『最新!ライテク大図解』ISBN:4870999420、この点だけはどうしてか載っていなかったのだ(こうして全部買っているのを見ると、ほんとに藁にもすがる気持ちだなと我ながら可笑しい)。
「実はブレーキは、多くのライダーが思っているより強く引いても問題ない。というより想像以上に強く引く必要がある」(P67上段)というこの一文だけでも、ブレーキングに関するすべての悩みが氷解したようなものだ。ネモケンさん、なぜこれをずっと早く書いてくれなかったのか!
さあ、さっそく峠で練習だ。見せてくれ俺のニッシン(笑)!素晴らしきフルブレーキングのポテンシャルを!……とはどうも天気が許してくれないようなのが、なんともうらめしい日々ではある。