BiG MACHINE12月号

Jet2003-11-21

珍しく用品カタログじゃなくまともなライディング記事が載っているので、数ヶ月ぶりにBiG MACHINE誌を買った。特集は「ハンドリングのメカニズム」。セルフステアの理論からキャスター角やオフセット量などのセッティングが及ぼす影響まで細かく解説してあるが、国内・海外主要メーカーに「自社のハンドリング」についてのインタビューした記事が面白い。
「一般に言われている“ヤマハハンドリング”といったものはなく、あらゆる領域で扱いやすくしているだけだ」というヤマハ、質問に大真面目に答えているようでいて、よく読んでみると一般論しか言っていないスズキ、公道で面白けりゃいいのであってステダンなど要らんというビューエル、別に深く考えていないといった風情のモトグッツィなど、それぞれに考え方がバラバラなので面白い。共通しているのは、どのメーカーも自分のところがレースで勝つために作ったバイクをとりあげておきながら「ウチのバイクは幅広い層ユーザーに乗りやすくと考えて作りました」とか一応言っておいていることだろう(笑)。
中でも、テストマシンとライバルマシンを「上と並」の2種類想定して用意し、慎重派や飛ばし屋など性格の違うテストライダーを用いて長期間走り込んだ上で、やっと「一ヶ所だけ」変更を行い再び同じテストを繰り返していくというドゥカティの開発手法は興味深かった。読んでいるだけで、スケジュールよりも十分な開発成果を重視する姿勢が伝わってくる。二年に一度のフルモデルチェンジを繰り返す国内メーカーにはなかなか真似の出来ないことだろう。
我らがホンダさんは、CBR600RRの開発を語っている*1。そのホンダさん曰く、「600ccということで、ビギナーや女性の方にも乗りやすいハンドリングを目指した」とか。自分が乗っている限り、とても万人にはお勧めできない(特に日常の足にしたい人には)ポジションだし、マシンなりに曲がるのはイイがそれでは全然使えている気分にならない、どちらかというと女子供お断りのマシンだと感じる。しかしそれはどういうことかというと、「タンク長を縮めてシートの前後幅を広くし、ライダーが積極的に動きやすい。コーナリングの時に腕に余裕ができて、旋回中に前輪荷重をしやすい、オフロードバイクと同じ発想」だそうだ。
たしかに600RRは、乗っている時に驚くほど後輪を意識しない。まるで自分が「がぶり乗り」になっているんじゃないかと心配するくらい、タンクから前だけを中心にして曲がっていく。「後輪荷重、後輪荷重」と念仏のように唱えながら乗るネモケン教の信者としてはかなり心もとなかったのだが、乗っているうちにその違和感もとれてきた。というか、正しいポジションを維持していれば後輪にはしっかり加重されているのだ。
前輪を意識してバイクとしっかり一体になっている限り、600RRはどこまでも素直だ。きつい前傾ポジションにも関わらず、左折信号待ちからの発進の際、左レーンの一番左位置から、リア荷重を意識する間も無い1.5メートルくらい先の角を、リーンウィズのままインをかすめて曲がっていくなど朝飯前なのだ。渋滞のスリ抜けであれば、意識して前乗りするだけでまるで250ccのようにすいすいと走っていく。
ポテンシャルの高いマシンで言い訳を許さず修業しようと600RRに乗り換えたけれど、この乗りやすさには正直驚いている。この「マシンなりに曲がれる」領域が広くないと疲れちゃって仕方ないのだろうけど、思わずそこに甘えてしまうのを抑えてこの600RRには「それ以上」の世界を見せてもらわなければいけない。これは「だれが乗っても速い」といわれるホンダの裏の厳しさなんじゃないだろうか。
ぎりぎりまで「VTR1000SP-2」*2。という超ストイックな選択肢に悩み、結局踏み込む勇気がなく600RRを選んだ身としては、こんなのを厳しいと言っていてはいけないんだろう。しかもこれって進入時の話で、今度はコーナー脱出時にいかにトラクションをかけるか、ってとこで初めてユニットプロリンクの恩恵を云々できるのだ。そして、そのコーナー脱出速度の速さなくして、600ccに乗り換えたメリットは味わえないのだ。
やれやれ、道は長い。

*1:それにしても、僕は免許を取ってこのかたその時勢の注目バイクや誰もが欲しがるようなメジャーなマシンに乗ったことが無いので、そこかしこの雑誌で自分の機種を目にするというのはひどく奇妙な気分だ。なんだかこそばゆい反面、マシンの魅力が重ね重ね語られるのを見るのは新車購入時のワクワク感がずっと続いているようでいい。その分モデルチェンジで「型落ち」になった時のショックはけっこう大きいんだろうな、と今から心の準備をしたりする

*2:鈴鹿8耐などで連勝を飾るホンダのVツインレーサー「VTR1000SPW」の市販版。納車したオーナーがほぼ全員「失敗した!」という第一声を発するほど、高荷重域、つまりハイスピードでしか曲がらないガチガチサスのマシン。決まればとんでもなく速いが、大抵のオーナーは全てを「柔らかくする」改造にいそしむ