Nakedその2

Jet2003-11-18

昨日に引き続きバイクとは関係のない話だ。ついに「Let It Be…Naked」ASIN:B0000DJZA5。先行発売されている日本盤はCCCDなので避けたし(カウンターカルチャーの象徴だった60年代後半の彼らがコピーコントロールなど望むだろうか!)、仕事も忙しかったので週末にでもゆっくり買えばイイやと考えていたけれど、昨日も書いたGet Backのプロモで完全に火がついた。
夜11時まで開いているありがたいタワーレコード新宿店でUK盤をゲット。他のフロアがすべてシャッターを閉め切っている中、ひっそりとしたビルのエスカレーターを上がる。店に足を踏み入れると一転、大勢の人たちががやがやとCDを選んだり試聴したりしていて、ここだけまだ夕方なんじゃないかと錯覚するほどだ。ビートルズの他にも後ろ髪を引かれるCDはたくさんあるけれど、すべてはアマゾンに先送りすることにして店を出る。
家に帰って落ち着いたところで“針を落とす”。今ではリビングにあるONKYOのミニコンポよりもiMac+iSubの方が音がいい有り様なので、パソコンの前で机に足を投げ出しての鑑賞会だ。
気持ちがはやって、気にかかる曲から順を無視して聴いていく。リマスター盤だけに、ビートルズというよりミックスしたプロデューサーやエンジニアの意識みたいなものが気にかかる。「The Long And Winding Road」はポールがフィル・スペクター版をひどく嫌っていた一曲だし、自分で何度か「オリジナルに近い」リメイクを試みてもいる*1くらいなので興味深い。映画版と同じテイクだが、あらためてこれを聴くとまるでそのままバンド・サウンドでやれそうなアレンジ。「自分が歌う」ことは棚上げして(笑)、ステージでもやってみたくなる。
「For You Blue」はいきなりミュート・ピアノが前面に出てきて、印象的なジョンのスライドが遠のいてしまったのに驚く。ボーカルを際立たせたミックスを聴いていると、どうしてもジョージがもういないということを考えてしまう。
ボーカルの存在感といえば、どうやら一番評判の高いらしい「Across The Universe」もすごい。まるで彼のアンソロジーを聴いているのかと思うくらいジョンの声で空間が埋め尽くされ、“ビートルズ”はどこかへ消えてしまう。存命中かそうでないかということとは関係ないと思うが、最近のジョンとジョージ関連のリマスターやアレンジは、わざと哀切をそそるかのようにボーカルを前面に出すことが多いように感じる。
「One After 909」は思わず笑ってしまうほど「初期」っぽくなっていた。ビートが強調され、ギターが尖っていてちょっと安っぽく、妙に「元気」。これでもうちょっとベースの輪郭が消えて奥に引っ込んでいたら、まるでBBCセッションのようだ。
良くも悪くも圧巻はやはり「I've Got A Feeling」だろう。ラフなライブ感のあった原盤は跡形も無く、出来の良いスタジオ音源があったのかと思うほどすべてが整っている。映画「Let It Be」でサヴィル・ロウ・ストリートの頭上から遙かに聞こえてくる、少しこもったイントロと同じ雰囲気はもう味わえない。そのかわりに安定したボーカルと、ファズかと勘違いするような図太いベースが連綿と曲をつなぎ、なんともパワフルかつヘヴィになってしまった。
後で調べたら、ルーフトップ・セッションでの二つのテイクを細かく、時には数秒おきに繋ぎ合わせているらしい*2。映画中でのポールとの口論でおなじみのジョージの下降フレーズも、微妙にピッチが修正されているとか*3。これはポールがやったことじゃないとはいえ、天国でジョージもあきれているかもしれない(笑)。とはいえ聴いている分には心地いいので、僕はこのバージョンが嫌いではない。
いろいろ議論かまびすしいこの「Naked」だけど、これが原盤をしのぐかどうかはさておき、やはりビートルズ後期に対する感動を新たにしてくれるのは確かだ。UK版ブックレットの最終ページ、アップル社のオフィスでだらしなく輪になっているビートルズとスタッフたちの写真を見ると、僕は背筋がゾクゾクする。風紀がすっかり乱れ、湯水のように金を使い、社員のネコババが横行し、詐欺師が大手を振って出入りしていたこの会社は、60年代末期の彼らの無軌道さをよく象徴しているといえる。しかし、誰も自分たちを導くものなく崩れきったビジネスをくり広げるこの4人が、ひとたび「ちょっとやるか」と地下のスタジオに入るや否や、珠玉の名曲が次々と生み出されてきたのである。なんともカッコいいではないか!

*1:「Give My Regards To Broad Street」ASIN:B00000721H、ポールなりのオリジナルなんだそうだ。そんなにフィル版と対照的には聞こえないんだけど……。

*2:レコード・コレクターズ』12月号の森山直明氏の記事に詳しい。

*3:ブレイクのギターのフレーズがイメージと違うと“指導する”ポールに、「なんでも言う通りにすればいいんだろ」とジョージが当てつける一幕は、このセッションでの4人の不仲を象徴するシーンとしてよく引き合いに出される。このセッションでの一部の細かいカンバセーションを邦訳したサイトがあるので参照。
http://www.cmp-lab.or.jp/~jun/getbackbook.htm