モータースノーツ

Jet2006-01-06


年末進行にかまけて放置した上に仕事始めよりも遅い更新開始というABモータース、大変失礼いたしました。どうしていたかって、いやなにちょっとしばらく日本を離れておりまして。どこへ行っていたかというと、ヴァナ・ディール(笑)。
というのは冗談ですが、まあ家族がいるおかげで廃人にならずに済んでおります。せっかく暴走中のフェンリルを見かけたのにイベントだと知らずにただ傍観していた髭のHG風ヒューム戦士は僕です。
さてバカな前置きはこれくらいに、冬期休暇中のトピックでも書き散らして今年の自分の尻を蹴り上げるとしましょう。


正月は群馬県草津温泉へ湯治。少し縁あってわが家は毎年夏と冬にここを訪れる。僕もその一員として幼少時から数十年通っているところなので慣れきってしまい、ともすればただ何もせずダラダラ過ごし(本格的にスキーをするほど長く逗留しない)、うっかりすると仕事まで違和感なく持ち込んでしまいそうなアットホーム具合。今回はそのゆるんだ感じを払拭すべく、まだ足を踏み入れていない「観光」スポットを探して突入することにした。
そこですぐ僕の目を引いたのが「草津モータースポーツサーキット」長野原町から北上する国道292号草津町の中心へ入る少し手前に、うち捨てられたように飾られた朽ちた四輪バギーとともに、ひっそりと「サーキット入口」の看板がある。
ここの存在は以前から知っていたが、その人を呼んでいるのか遠ざけているのかわからぬひかえめな佇まいに、入口の中へハンドルを切ることは一度もなかったのは確かなのだ(草津サーキットはその“入口”から急峻な坂をしばらく下った森の中にあり、国道沿いから様子を伺い知ることはできない)。
だが、その気になってWebサイトを調べてみると、夏は四輪バギーのダートコースとなっているこのトラック、冬はスノーモビルも楽しむ事ができるという。実は最近のスノーモビルがすごいことになっているのを04年オフシーズンのこの写真で見て以来、この雪上高速移動マシンにいたく興味をそそられているのだ。
僕はといえば、小学生時代くらいに一度どこかでお遊びで乗ってみたことがあるだけ。しかもコーナーを曲がりきれずそのまま植え込みに突っ込み行動不能になるというオチ付きなのだが、まあ立派な(?)バイク乗りに育った今となっては、それくらい乗りこなせなくて何とする、だ。
ホテル付近の雪原でマイサンをソリで遊ばせ、妻との死に物狂いの闘いを終らせた後(僕と妻は年に一回、雪深いチャンスに恵まれると必ず真剣に雪投げをする。そこではどんな欺瞞も裏切りも許される)、僕たちは車に乗ってそこへ向かった。*1

折しも数日の晴天が終わり、かき曇った空から後に豪雪となるはずの雪粒が落ち始めた午後。いざ森を抜けて草津サーキットへ乗り込んだ僕たちの目に映ったのは、どこがコースともしれぬただの雪原と、ぽつねんと立つ傾いたプレハブ、そしてそこでやる気なさそうに隣人と話し込む管理人のおじさんと、おびえた表情でこちらを見つめる尾のない犬、といった風景だった。
僕たち以外に客などいないというのに一向に相手をしてくれないおじさんをじりじり待ちながらフィールドを見ると、そこにはロッシのまたがっていた1000ccのモンスター、YAMAHA RX-1 ERなんぞはもちろんなく、どこのものともしれぬ古ぼけた小さなスノーモービルが二台雪に吹きさらされている。さらにその傍にはこれまた年季の入った、車格から言って80ccくらいと思われる四輪バギーが佇んでいる。
料金は10分1000円。とりあえずマイサンを一緒に乗せて喜ばせようと四輪バギーにトライする。おじさんはアクセルとブレーキの位置だけ無造作に教えると、路肩に入るとスタックするのでわだちに固められた中心部だけを走るように、とだけ言い残して傾いたプレハブ小屋へ帰っていった。
まずは一人で試乗するが、バイクのように突き出したバーハンドルのグリップにアクセルはない。手元に、ちょうどミック・ドゥーハンが足首負傷後に使っていたサムブレーキのように小さなレバーが飛び出し、それを親指で押してスロットルを開ける。左手側グリップに普通と同じようなブレーキレバーがあるが、それは使わずエンジンブレーキだけで十分走れる、とはおじさんの弁。
ただの雪原にしか見えないところを、おじさんに「そこ」と指さされたほうへバギーを駆る。よく見るとフィールドは複雑な段丘になっており、バギーやスノーモビルの轍がどうやらコースらしきものを形成している。実際はこの雪の下にコースがあるのだろう。
左、右、と下りながら切り返し、さらに急な登りコーナーを抜けた後ぐるりと回って“ホームストレート”と交差。このあたりで、ありがたいことにすでにマシンの全体像がつかめてくる。小排気量エンジンの扱いやすいパワーのせいだろう。
意外にも複雑な立体構成を持つコースを抜け、バックストレッチで全開加速!柔らかい雪の斜面に踏み入らないようコーナー手前で早めにハンドルを切り、わずかにパワーをかけてドリフト気味に曲げ、すぐさま姿勢を後輪寄りに変えて昇り勾配のコーナーを脱出にかかる。

初めの周回で一度スタックしてしまい新雪の恐ろしさを知った後は、もうかなり自由自在だ。上半身を完全にフリーにし、腰も数ミリ浮かせたまま親指で微妙にスロットルを調節してリズミカルに雪面のこぶを乗り越える。ただしあまり腰を浮かせるとリアにトラクションがかからず登りで苦労するので結構忙しい。
難物は昇りながらのコーナーで、お尻の位置とスロットル開度で後輪の滑りをコントロールする。パワーロスをすると、排気量が小さいせいか相当リズムが狂うのだ。
コーナーではスタックを避けるためにどうしても慎重になってしまうが、もっと素早くクリアできるはずだ。車体より内側にぐいぐい上半身を入れる形でコーナースピードを稼ぐが、これが四輪バギーの“正しい作法”なのかどうかはわからない。
──こいつは相当に面白い。途中からマイサンを自分の前に乗せ、慎重ながらも夢中で周回を繰り返す。気がつけば「あと一周」のボードサインが出ていて、わずか10分間の(実際には15分くらい走っていたが)雪上バギー体験は終了した。
年末までの疲れもあって実はかなりぐったりしていたのだが、この数周でなにもかも吹き飛び、体の中にエネルギーが沸いてきたのがわかる。やっぱり僕は“モーターもの”が好きなんだ。体の調子が悪かったのは忙しくて二週間以上CBRのエンジンをかけていないからかも、なんて思ってしまう。クローズドコースで、しかも手の中にあるパワーで思う存分遊んでいるというのも気持ち良さの一因なのだろう。
残念ながら、スノーモビルの方は雪が激しくなってきたのと、コース脇に立って待っている家族が樹氷のついたアオモリトドマツみたいになり始めたので断念し、次回のチャンスを待つことにした。しかし、僕の中にはそれ以来「冬用のモータースポーツとして、バギーかスノーモビルを一台持ち、あまつさえそれでマチュアレースなど…」という邪念が離れないのである(笑)。*2

*1:冒頭の写真はYAMAHAのサイトから借用した素材で、本文とは関係ありません。走りに夢中になって、写真を撮り忘れました…

*2:実際には四輪バギーはやはり夏のもので、雪上で走らせるのはかなり限られた条件下でのことらしい。むしろスノーモビルであれば全国に専用のフィールドがあり、また自然と探索するクロスカントリー的使い方もできるから冬にはもってこいかもしれない。